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「私は神エルドに身を捧げているのです。エスラールよ。ご存知とは思うが、エルドは健全たることが美徳と説いておるのですよ。無論、肉体関係においても。ゆえに、この完全なまでに堕落しきったとしか思えぬ、罪深き淫売に協力はしかねるというわけだ」

「お、おぉ……」

 エスラールは言葉を失った。これだけの暴言を吐いているというのに、月の男からは悪意どころか善意しか感じられないのだ。自分を正しいと信じる気持ちに、ここまで迷いがないというのはある意味で素晴らしい。その気持ちに圧倒されてしまった。

「僕の人物評価は否定しないけれども、冤罪によって罪無き者が処刑されることをエルド様はお喜びになるだろうか? 君だってユドが犯人でないとわかっているだろう」

「ユドは自白をしたのだ。それが本当であれば罪であり、嘘であれば嘘をついたことが罪になる。興味本位の警史ごっこなどやめ給え、そして今すぐに懺悔し給え。エルドは悔い改める者をけして見捨てないのですから」

 月の男は胸に両手を当て、エメザレの顔を穢れない青い瞳で見つめて言った。

「宗教の勧誘は勘弁してよ。それに一応僕だってエルド教信者だよ。エルド教はクウェージアの国教だからね。それより月男くん、君って総監命令で反王家勢力を探してるでしょ?」
「なんのことです?」

 月の男の表情は変わらないように見えた。だが内心では相当焦っていてもおかしくはない。内偵行為が二号隊の知るところになれば、月の男は間違いなく裏切り者としてフルボッコにされることだろう。場合によってはエメザレのように、ずっと過ちを責め続けられることになる。月の男はそれを理解しているはずだが、恐れがない。恐れていないところがむしろ恐い。

「嘘は罪なんじゃないの? 月男くん。僕は反王家勢力が誰か知っているんだ」

 エメザレがふっと微笑んだ。



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