4/11


「そこに立たれると、夜の神聖な効力が薄れてしまう」

 月の男は長椅子から立ち上がると、二人を左右に押しのけ、夜に吸い込まれるように、外廊下の手すりに身を寄せて、手すりから身を乗り出した。青白い月光を浴びた月の男は、奇跡を起こせそうなほど輝いているような気がする。不思議なことだが月の男に対してだけ、月光がなにかの作用を本当にもたらしているのかもしれない。

「お前には全てをお話ししました。これ以上、話すことはない。お前は諸々の罪咎を今こそエルドに贖い給え」

 エメザレではなく夜空に語るように言った。ぶしつけなことを言っているのはわかったが、悪意が感じられない。失礼だという自覚が無いのだろう。

「きみが僕を嫌いなのはすごく知っているけど、これは殺人事件なんだよ。妥協してくれてもいいんじゃない。聞きそびれたことがあるんだ」
「まったく、なにを考えているのでしょうか。罪人よ、彼氏など連れてなんのつもりです?」

 月の男は振り返り、エスラールのことを睨んだ。

「え。俺? 彼氏じゃないんだけど」
 エスラールは自分を指差し、慌てて言った。
「お前、見ない顔ですね。お名前は?」

「エスラール。所属は一号隊だ。エメザレのルームメイトに指名されたんだよ。彼氏じゃない」
「そうか、申し訳なかった。一号隊。なら、見ない顔なのは当然ですね」
「聞きたいことがあるんだ」

 エスラールが言うと、月の男は左手でこめかみを押さえ、困ったような顔をした。



- 143 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP