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「自業自得だから仕方ないんだ。僕が自分の身体を利用したのが悪かった。その罰だよ。そして罰を僕は受け続けなければならない。ずっとね」

 長椅子を通過する度、よからぬささやき声きがごにょごにょと聞こえてくる。 
 エメザレはきっと、肉体のみならず精神的にも抵抗しないのだ。抵抗しないことで、罪のようなものをを自己の中で償っているのだと思った。その罪とは、シマから逃げるために教師たちと寝たことを指しているのだろうか。それが正しかったとは言わないが、自分を守る手段がそれしかなかったのなら、誰もエメザレの行為を責めることはでききないように思えた。

 ただ、ひとつ悔しいのは、その時エスラールが傍にいたら、例え負けても何度でもシマと戦って、絶対にエメザレを守ったし、エメザレを教師と寝させるなんてことはさせなかったのに、ということだ。
 守ってあげたかった。遅すぎるが、守ってあげたかった。

「ところでさ、その月男(つきお)くんってどんな奴」

 苛立ちを誤魔化そうとエスラールは聞いた。

「月男くんはちょっとばかり個性的かなぁ。エルド様が大好きなんだよ。エルド様が好きってことは、つまり僕のことが嫌いってことなわけだけど」
「そうか、同性愛タブーだもんな」

 ガルデンでそんなことを言ってもキリがない気はするが、エルド教は同性愛を完全否定している。

「そういうこと。ま、内偵としては適任かもしれないよね。神に誓っているひとなわけだから、真面目――なのかな、わかんないけど。とりあえず成績は悪くないから立ち位置はそこそこだし、ロイヤルファミリーでもないし。丁度いいというか。事件の次の日に事件のことを月男くんに聞きに行ったんだけど、その時は一応ちゃんと話してくれた。でも今日は簡単には話してくれないだろうな。前と違って内偵に任命されているからね」

 月の男の部屋は二階にあるらしく、長い廊下を抜けて二階に上がった。誰かとすれ違う度に、本当にぶん殴りたくほど、いやーな目で見られた。エスラールが一号隊のよそ者で、そんなのがエメザレと歩いているのが不可思議なのだろうが、それにしても無言の注目を浴びすぎだ。そのくせ彼らはけして話しかけてはこない。関わり合いになりたくないのだろう。

「もうちょっとだから、我慢してよ」
 エメザレはエスラールの苛立ちを察したらしく、なだめるように言った。
「ほら、いたよ。あれが月男くんだよ」
 エメザレが顎でしゃくって指した。



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