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「行こう、エスラール」

 エメザレはいつの間にかエスラールの手を握っていた。おや、と思っていると強く引っ張られた。

「ふん。まあいい。寂しくなったらいつでも俺のとこに来いよ。可愛がってやる」
「早く変態治せよ」

 エスラールは精一杯の善意を込めて、残念なイケメンに言った。

◆◆◆
 
 エメザレはしばらくエスラールの手を放さなかった。恥かしいと思わなくもなかったが、まるで小さな子供が心細くて、誰かの手を握っていないと耐えられないというような、頑なな握り方だったので、放すに放せず、半分手を引かれるようにしながらも、そのまま手を繋いでいた。

エメザレは黙々と歩いている。どこに向かっているのかわからないが、おそらく二号寮だ。外廊下に出る途中に何人かとすれ違った。手を繋いでいるところを見られてしまったが、べつに嫌ではなかったし、なにも言われることもなかった。

「ねぇ、メルベロットって?」

 聞いてはいけないことなのかもしれないと思いつつも、エスラールは沈黙を破って聞いた。

「シグリオスタの伝説の美少年だよ。死んじゃったけど」

 エメザレの声は案外明るかった。エメザレはエスラールの手をやっと放して、思いを馳せるように上を向いた。

「へぇ。エメザレより美少年なの?」
「僕は平凡な顔だよ」
「嫌味かよ。全世界の平凡に謝れ」

 エスラールは憐れな怒りを感じたて言ったが、エメザレは本気でだったようだ。エメザレは妙に思いつめたような顔をして、大きな息を吐いた。



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