6/8 「行こう、エスラール」 エメザレはいつの間にかエスラールの手を握っていた。おや、と思っていると強く引っ張られた。 「ふん。まあいい。寂しくなったらいつでも俺のとこに来いよ。可愛がってやる」 「早く変態治せよ」 エスラールは精一杯の善意を込めて、残念なイケメンに言った。 ◆◆◆ エメザレはしばらくエスラールの手を放さなかった。恥かしいと思わなくもなかったが、まるで小さな子供が心細くて、誰かの手を握っていないと耐えられないというような、頑なな握り方だったので、放すに放せず、半分手を引かれるようにしながらも、そのまま手を繋いでいた。 エメザレは黙々と歩いている。どこに向かっているのかわからないが、おそらく二号寮だ。外廊下に出る途中に何人かとすれ違った。手を繋いでいるところを見られてしまったが、べつに嫌ではなかったし、なにも言われることもなかった。 「ねぇ、メルベロットって?」 聞いてはいけないことなのかもしれないと思いつつも、エスラールは沈黙を破って聞いた。 「シグリオスタの伝説の美少年だよ。死んじゃったけど」 エメザレの声は案外明るかった。エメザレはエスラールの手をやっと放して、思いを馳せるように上を向いた。 「へぇ。エメザレより美少年なの?」 「僕は平凡な顔だよ」 「嫌味かよ。全世界の平凡に謝れ」 エスラールは憐れな怒りを感じたて言ったが、エメザレは本気でだったようだ。エメザレは妙に思いつめたような顔をして、大きな息を吐いた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |