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「うん。あの戦い方、結構ムカつくよね」

「おそらくあれが限界だったんだろう。ロイヤルファミリー外へやたらと当り散らしていたのは、強いことを誇示したいのと、能力のない自分への失望の鬱憤晴らしってところか。子分を多く持ちたがったのも、実力以上に見せ、己の虚栄心を満足させるためだ。そして子分には絶対に虚栄を見破られたくないから、けして心の内は明かさない。また、自分と同等の立場に誰一人置きたくはない、という高慢さから友達は作らない。奴は本音を誰にも言わなかったし、言えなかった」

「なんかそれ、ある意味で可哀想だし、それに辛そうだな」

 サディーレは自分と真逆なんじゃないかとエスラールは思った。
 エスラールは嘘をつけないし、誤魔化したりするのも苦手だ。弱点は隠せないので開けっぴろげにしてしまう。でも公にされている弱点というのは、大した弱点にはならないのだ。誰もに弱点を知られていると、自分でわかっているのだから、心構えは常にできている。むしろ隠そう隠そうと頑張るほど、その弱点がいかにくだらないことだったとしても、露呈したときの精神的ダメージがひどくなる。サディーレはそれの典型のような気がする。
プライドの高いひとは、エスラールのように自分を開け放っては生きられないのかもしれない。

「まったくだ。誰にも本音を言わないで生きるのはなかなか辛いことのようだ。あれだけワイルドさをかもし出しながらも、実は日記をつけていた。俺がそれを知ったのは偶然だが、そこには奴の恥かしい本音が書かれていたことだろう」

「へー。サディーレが日記か」

 エメザレが興味深げに言った。

「俺は一度だけ中身をちらっと読んだことがある。いつだったか、俺が読みたかった本をあいつが借りてたことがあって、その本を催促しに部屋に行ったんだ。あいつの日記帳、一見すると本に見えんだよ。結構な大きさがあって、分厚くてたいそう立派な製本だったから、てっきり本だと思って、なんの本読んでんだよ、とか言って机の上の日記帳を開いてみたらさぁ」

 いったん言葉を区切ると、ミレーゼンは根性の悪そうな顔を隠すことなく、肩を震わせて笑い出した。

「開いてみたらなんだよ。早く教えろよ」

「あいつ、あいつ、あの顔で日記に女の名前つけて愛を語ってたんだぜ。ちょー笑えるだろ。はっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 ミレーゼンは息が苦しそうなほどに笑いながら言った。

「そんなに笑うなよ。祟られるぞ」

 サディーレの顔がどんななのかは知らないが、日記に女の名前をつけているなんて、死んでもバレたくなかったに違いない。こんなふうに笑い話にされしまうとはさぞかし無念だろう。今ここでサディーレが生きていたら、自殺か憤死していてもおかしくない。
 ミレーゼンが呪われないよう、エスラールはサディーレの安らかなる死を願ってやった。

「ところでサディーレは、そんなたいそうな日記帳をどこで手に入れたんだろう」

 エメザレが首を傾げた。




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