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「ミレベンゼがそんなことを……」

 エスラールの台詞は、エスラール自身もびっくりするほどミレーゼンに効果をもたらした。ミレーゼンはまるで神の啓示でも受けたかのように目を見開き、身体を硬直させ、そして読んでいた本を手に取り、広げられた本に顔を埋めて挟み込むと、今度は心配になるくらいに小刻みに震え出した。どうやらものすごく喜んでいるらしい。

 こいつ、すんげーブラコン。
 エスラールは少々呆れながらも、喜び震えるミレーゼンを眺めた。ふと横を見るとエメザレが、死んだ害虫を見下すような、かなり冷ややかな眼差しでミレーゼンを眺めていて、なんだかミレーゼンが憐れになった。有能で美形なのに本当に残念な奴だ。

「わかった。協力してやるよ」

 喜びがやっと落ち着いたらしいミレーゼンは、きりっとした表情で顔を上げて言った。一応格好つけているつもりなのだろう。
 そんなミレーゼンに、エメザレは冷ややかな面持ちを崩さず、しかし穏やかに口を開いた。

「ぼくはサディーレについて、ほとんど知らない。サディーレの人物像をできるだけ詳しく聞かせて。できれば、きみなりの分析も合わせて」

「ふふ、本来ならば俺の分析は高くつくんだが、今回は特別だぞっ」

 ミレーゼンはウィンクした。相当テンションが上がっている。自分を見失いつつあり、そして格好のつけかたを間違えている。エスラールはそこはかとない痛ましさを感じて、生温かい目で見守った。

「そうだな、あいつはまず高慢だ。とにかくプライドと理想が高く、理想へ近付くためならなんでもする。そんな性格だからこそ、奴はロイヤルファミリーになれたんだろう。だが憐れなことに、実のところ大した能力は持っていない。奴は限界まで努力していた。だが、そこまで努力してもロイヤルファミリーでは下位だった。奴はそんな自分が許せず、努力していることを隠すために虚勢を張って余裕があるように見せかけていた。奴はまるで、まだ本気を出してません、というような戦い方をするんだ。お前も知ってんだろう?」

 ミレーゼンがエメザレに投げかけると、エメザレは、すごいわかる、とでもいうように何度も頷いた。



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