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 エメザレの声でミレーゼンは面倒くさそうに顔をあげたが、声の主がエメザレとわかるといやったらしく口の端をあげた。その笑い方が昨日の出来事を思い起こさせる。なんだかぞっとした。

「エメザレか。と、そっちの顔のヤバい奴はエスラールだっけ」

 意外にも敵意は含まれていない。ケンカには発展しなさそうだ。

「そうだけど、そんなに俺の顔ヤバいのか」
「うん」
「相当な」

 ミレーゼンにきいたはずだが、なぜかエメザレまで即答してくれた。ちょっとショックだった。



「サディーレのこと? ふーん。なるほど犯人探しをしようってわけか」

 ミレーゼンは読みかけの本を開いたまま下に向けて、自分の腹の上に置いた。話を聞く気はあるらしいが、上体を起こす気はないらしい。

「サディーレと、そこそこ仲良かったよね」

「あいつは本が好きだったからな。俺も本が好きだし、話は合ったな。サディーレって奴は多くの子分を欲しても、友人はあんまり欲しがらないタイプのようだし、友人に一番近しい存在は案外俺だったのかもしれない。けどな、エメザレ。シマ先輩の命令を忘れたのか? シマ先輩はこの殺人事件には関わるなと言ったんだ」

「わかってるよ。だから僕はロイヤルファミリーを抜けたんだ。僕は今や完全なる一号隊だ。もうロイヤルファミリーの統制下には属してない」

 エメザレとミレーゼンのだけの会話になりつつある。いなかったことにされている感があるが、エスラールはおとなしくしていた。

「お前はな。だが俺はこれからも二号隊だ。ということは、だ。俺がサディーレの情報をお前に言ったとして、それが犯人探しの手掛かりになったとすれば、俺は間接的に犯人探しに協力したってことになる。そうなれば少々の罰は覚悟せねばならない。悪いが俺はシマ先輩を敵に回したくない。おっそろしいひとだからな」

「そう言うと思ってた。じゃあどうしたら協力してくれるの」
「ま、ここ、座れよ」

 ミレーゼンは自分のすぐ横をぽんぽんと叩いた。エメザレが素直にそこに座ると、ミレーゼンはまるで恋人を扱うようにエメザレの腰に手を回して抱き寄せた。

「おい、なに考えてんだよ! ここ図書室だぞ!」

 びっくりしたのはエスラールだ。だがミレーゼンはきれいさっぱりエスラールを無視し、当のエメザレは全く動じた気配もなく、回された手を慣れた手つきで振りほどいた。が、ミレーゼンは再度エメザレの腰に手を回し、エメザレの顔にくっつくギリギリのところまで顔を近づけた。

「なぁエメザレ、個人的に俺と付き合わないか?」




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