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「ヴィゼルが叫んでたのは聞こえたよ。放っておいていいの? 大切な友達なんでしょう?」

 エメザレが心配そうな顔で聞いてきた。その答えにエスラールは胸を撫で下ろした。愛の告白が丸聞こえとは恥かしすぎる。しかし先ほどの言葉は、まるで違う自分が思わず口走ったかのようで、不思議なほど現実味がなかった。

「大丈夫。仲直りできるよ。ユドの命がかかってたってわかれば、ヴィゼルは理解してくれるさ。いい奴だもん」
「ごめんね」
「エメザレのせいじゃないよ。行こう」

 謝るエメザレの肩を叩いて、エスラールは明るく言った。



「で、どこ行くの?」

 エスラールはずんずん進んでいくエメザレの背に聞いた。

「とりあえず、ミレーゼンのところに行く」
「げ。よりにもよってあいつのとこかよ」

 なにしろエスラールは昨日、ミレーゼンの元気な逸物をまじまじと見てしまったのだ。そんな相手とどんな顔をして合えばいいのだろうか。エスラールの頭の中で、昨日の逸物の残像が駆け巡る。絶対に気まずい。苦笑いが浮かんできた。

「ミレーゼンはサディーレとそこそこ仲が良い程度の付き合いだったけど、彼はひとの心を読む天才だからね。サディーレの子分どもに話を聞くより参考になるよ」

「心を読む天才って恐ろしいな」

 あんな変態に心を読まれたくない。エスラールは心の底からそう思った。

「あ、待って」

 訓練場を突っ切る途中でエメザレは止まると、東に進路を変えた。

「ミレーゼンは確かこの時間、いつも図書室にいたはずだ。図書室に行こう」

 図書室は東棟にある。二人は東棟へ向かった。



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