6/10 もしかして、あの時、エメザレと出会った瞬間から自分はエメザレに恋していたのではないか。エメザレの魂がまだ美しいのだと、なぜかあの瞬間に、自分にだけわかった。それは特別で、運命で、どんなことがあっても葬り去ってはならない真実なのだと、きっとその時、思っていたのだ。 でもエスラールの中には強烈に同性愛を否定する気持ちがあって、というよりもヴィゼルを大切に思う気持ちがあって、エメザレに惹かれた自分を認めたくなかった。 サイシャーンもエスラールならばエメザレと友人以上の関係にならないだろうと踏んで、エメザレのことを頼んだのだ。エメザレを好きになるということは、サイシャーンからの信頼も裏切ることなる。エスラールはこの二つをどうしても失いたくなかった。 だから何事もなかったかのように無視して、とぼけて、否定した。ヴィゼルのために。心地よい友情のために。大切な信頼のために。 だが、ヴィゼルはエスラールの気持ちをはなから察していたのだろうと思う。だから恋じゃないのかと聞いたのだ。違うと思っていた。違うと信じたかった。色々な理屈をこね回して、これは恋なんかじゃないと言いたかった。自分が同性を好きになるはずがないと笑ってやりたかった。 しかしそうではなかった。エスラールはやっと理解した。もう自分に嘘をついてはいけないのだ。元々いつまでも自分を欺き続けられるほど器用な性格でもない。ここで本当の気持ちを言わなければ、自分に嘘をついてまで、どうしても守りたかったヴィゼルとの関係は再生不可能なほどに崩れてしまうだろう。ひとの関係というものは強固なようでいても、とても繊細で、一度変わってしまうと二度と同じようには形成されない。終ってしまうか、変わってしまうか、似たような形で継続されるだけだ。 ヴィゼルのとの関係は変わってしまった。似たような形で続いたとしても、二度と完全にはならない。それでもヴィゼルとはずっと友達でいたかった。そのために、エスラールは本当の気持ちをここで解放しなくてはならなかったのだ。 ヴィゼルが間抜けで不細工で可愛らしい、つぶらな瞳を潤ませて、エスラールの言葉の続きをじっと待ち望んでいる。 もういいよ。 知らないもう一人の自分が頭のどこかでそんなことを囁いた。 「好きだと思う」 すごく小さな声だった。なんだか自分が言っている自覚がない。ヴィゼルはなにも言わなかった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |