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「え、ちょ、ちょっと。おい、エメザレ」

 エメザレの後を追おうとするが、ヴィゼルに力の限りに抱きつかれ身動きが取れない。

「逃げないでよ! エスラール!」
「逃げる気はないけど、俺急いでるんだよ」

 もがいたが、もがくほどヴィゼルの抱きしめる力が強くなった。

「僕はなにも聞かなかったし、説明も求めなかった。きっとなにか君は総隊長に頼まれたと思ったからだ。僕は気を遣ったつもりだよ。エメザレのことはよくわからないけど精一杯、親切にしたつもりだ。だけどエスラールは少しも理由を話してくれないし、僕を置いてエメザレとどっかに行ってしまうし、顔面は日々崩壊していくし、すごく寂しかったんだよ!」

「それはごめん」
「君、知ってる? 総隊長はエメザレを一号隊の仲間にしてくれるように、一号隊中に頭下げて頼んで回ってたんだよ? 僕も頼まれた」
「そうだったのか。そっか。それで」

 あのサイシャーンに頭を下げられたら普通は嫌とは言えない。先ほどのバファリソンの謝罪もサイシャーン効果だったのだろう。まったく、なんて大したひとなのかと、妄想の中でサイシャーンにキスをした。

「それなのに、どうしてエメザレと二人きりでこそこそと行動したがるの? それじゃ総隊長が頭下げた意味ないじゃん! 僕はそういうの酷いと思う。それにエスラールはエメザレのことを僕とは違う目で見てる」

「違う目ってなんだよ」

 エスラールは言ったが、確かにエメザレはヴィゼルとなにかが違う。例えヴィゼルとキスする羽目になってもたぶん恥かしいとは思わないだろう。ただ笑い話が一つ増えるだけだ。でもエメザレは違う。昨日のようなことがもう一度あったら、と考えるとなんだか得体の知れない自分が覚醒してしまうような気がして恐ろしいのだ。今まで一生懸命塞き止めていたなにかは崩壊してしまうだろう。

「本当のこと言ってよ。エスラールはエメザレが好きなの? それは恋なの? 愛なの?」
「俺はエメザレを……」

 友達として好きだ。と言おうとしたが、それよりも先に気付きたくないことに気付いてしまった。



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