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「このタイミングかよ!」
「なんか文句あんのかよ、え?」

 ヴァファリソンは大柄の体をだるそうに動かし、首を傾けて言った。

「俺たち急いでるんだよ。どけ」
「そんな恐い顔すんなって。この間は悪かった」
「へ。今なんて言った?」

 エスラールは自分の耳を疑った。教官などは別としても、バファリソンが誰かに謝るところをエスラールは見たことがなかった。

「悪かったって言ったんだよ。お前じゃねぇよ。エメザレに言ってんだ」

 バファリソンはエスラールを手で払いのけ、後ろにいたエメザレに向かって言った。エメザレの顔を見ると、エメザレはバファリソンの顔をじっと見つめていて、何度か瞬きをした後、頷いた。

「もう気にしてない」
「ま、仲良くしようや。これから」

 バファリソンは大きく無骨な手をエメザレの前に差し出した。どうやら握手を求めているらしい。

「うん。よろしく」

 エメザレはバファリソンの手を軽く握った。改めて見るエメザレの指は細くて、バファリソンが思い切り握り返しでもしたら、折れてしまうんじゃないかと冷や冷やしたが、バファリソンは満足げな顔で豪快に笑うと、なにもせずに子分を連れて去っていった。

「なにが起こったんだ……。気味が悪いな」
「まあいいよ。早く行こう」

 エメザレが歩き出そうとした。が、

「エスラール!」

 今度は後ろから自分を呼ぶ声がした。


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