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「そうか、ユドはサディーレが殺されていることを利用して、エメザレを犠牲者から外させることを思いついたのか!」

 サディーレの死体を発見したユドが、サディーレの死体を再度めった刺しにしたのなら、一見してユドがサディーレを殺したように見えるし、ユドがサディーレを刺せたことに説明がつく。いくらサディーレが強くとも、死んでいればユドでも簡単に刺せる。
 それに、昨日ミレベンゼが言っていたことが正しいとすると、もしエメザレが犠牲者に立候補していなければ、ユドが犠牲者に選ばれていたことになる。過去にも意図がなかったにしろユドはエメザレに助けられ、しかも告白までしている。ということは、ずっと自分の身代わりになってくれていたエメザレに、ユドが感謝し続けていたとしても不自然ではない。

「そう。それなら全て説明がつくんだ。誰がなんの目的でどうしてサディーレを殺したのかまではわからない。だけど、仮説をいくつか思いついた。一つ一つ調べていけば犯人を突き止められるはずだ。それと反王家勢力のことだけど――」

「起床――――――!!!」

 エメザレの話を遮って、起床のベルが響き渡った。同時に時象塔の鐘も鳴り渡り、頭が痛いせいか、いつもよりさらにけたたましく、殺人的に感じられた。
 エメザレは毛布姿で立ち上がり、ドアのほうを見た。
 起床係が走り回っている他は、まだ静かだ。

「待って、この話はまた後で。たぶんもうすぐサイシャーン先輩が来る。先輩にはユドのこと、まだ言わないで。君にはあとで全部話す。今日の訓練が終ったら話すから。とりあえず着替えよう」

 エメザレに言われてエスラールは、もそもそと毛布から抜け出した。

「でも俺、嘘つくの苦手なんだけど」
「じゃ、僕がうまくやるからエスラールは適当に話合わせて」

 エメザレはにっこりと笑って言った。その笑顔はどこからどうみても綺麗な印象の美少年だが、末恐ろしいものを感じてエスラールはぞっとした。将来、絶対になにかすごいことをしでかしそうな気がする。

「あ、そうだ。昨日、エメザレの制服にボタンつけといたよ」

 エスラールは一応チェストにしまっておいたエメザレの制服を出して渡した。



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