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「僕は君を信用する。だから君も、エスラールも僕を信じて。お願い。言わないで。サイシャーン先輩にとめられたくないんだ。永遠に黙ってろってことじゃない。事件が解決したら、ちゃんと全部話す。先輩に迷惑もかけないから。だからそれまで黙ってて」

 エメザレはまるで祈るように、エスラールの手を痛いくらいに強く握り締めた。

「事件が解決したらって、エメザレ、事件を解決するつもりか?」

「昨日、先輩の話を聞いて、半分くらいは解けた。と思う。僕は切り札を持ってる。ユドはサディーレを殺していない。僕ならユドを助けることができる」

 エメザレが顔を上げた。エスラールはその一生懸命な顔をじっと見つめた。
 切り札とはなんだろうか。エメザレはなぜユドを助けようとしているのだろうか。色々な疑問が頭を駆け巡った。なにをしようとしているのか、全くわからない相手を信じてしまっていいのだろうか。場合によってはサイシャーンを裏切ることにもなりかねない――だが、やはり目が綺麗だ。造形もそうだが、それ以上に淀みない意思を感じるのだ。意識の根底で泥まみれで眠っている形なき美しさが見えるのだ。エスラールにひとの心は読めない。でも、ひとを信じるセンスには自信がある。

「わかった」

 エスラールはうなずいた。

「言い訳に聞こえるかもしれないけど、昨日、僕が二号寮に行ったのはロイヤルファミリーと宴会の犠牲者を辞めるためだ。あと最後にお別れが言いたかったのと、どうしても言いたいことがあったから。辞めた理由はもちろん、君とサイシャーン先輩がやめろと言ったからというのもある。でももう一つ理由がある」

 エメザレは人差し指をぴんと立てて言った。

「もう一つ、理由?」
「うん。サディーレ殺しの犯人を見つけるためだ」


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