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「ごめん。エスラール」

 すぐ傍に、しょんぼりして泣きそうなエメザレがいた。エメザレは毛布に包まったままの姿で床にへたり込み、エスラールの顔の傷をやんわりと撫でている。
起床のベルはまだ鳴っていないが、どうやらもう朝らしい。しかし、頭が割れるように痛い。首もおかしいままだ。身体を起こそうとすると、腰やら足やらにも小さい痛みが走った。まるで老人にでもなった気分だ。

「おはよ……」

 エスラールは根性で起き上がり、力なく言った。エメザレはこんな表情もするのかと思うほど、明らかに落ち込んでいるらしかった。

「ごめん」
「いいよ。大丈夫」

 ここまでくると、もはや意地だなと思いつつエスラールは笑って見せた。

「顔、すごいよ。なんか土に還りかけてる怪物みたいだよ」
「それはひどい。でも、まあ、元々たいした顔じゃないし、お嫁に行く予定もないから平気だよ」

 土に還りかけた怪物とは一体どんな顔なのだろうかと心配になりつつも、冗談めいた口調で言うと、エメザレは少し安心したような顔をした。

「回し蹴りしてごめん。それと勝手に二号寮に行ったのも謝るよ」
「うむ」

「ついでにキスしたのも悪いと思ってるよ。でもそうでもしないと君に勝てないと思ったから……卑怯だったよね」
「いや、あ、あれは……」

 昨日ミレベンゼに言われたことを思い出し、エスラールは身体中が熱くなるのを感じた。
エメザレにしてみれば、キスなどし慣れていて、どうということもないだろう。あれに深い意味なんてない。
 エスラールは自分にそう言い聞かせた。

「君のこと信じるよ。エスラール。君を信じるよ」

 唐突に言われたので、なんだか夢のような気さえした。


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