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「そんであの日、確か昼休みだったかな、エメザレはシマ先輩を殴った。あれはひどかったな。エメザレも殴られたみたいで血は出てたけど、シマ先輩はもう駄目なんじゃないかって思うほどの出血だった。たぶん殺す気だったんじゃないかな。そりゃずっと惨めな思いをさせられてたからな。あの時はエメザレとシマ先輩が殴り合って片方が重傷とだけ聞いたから、俺はてっきり怪我したのはエメザレだと思ったよ。まさかあのエメザレが勝つなんて……。シマ先輩だけじゃなくて、シマ先輩の取り巻きも全員ぶっ倒してたんだぜ。その惨憺たる光景の凄まじさときたらもう、忘れられないよ」

「なんか想像できないな。エメザレっておとなしそうに見えるし。でも実際は強いんだよな。俺もぶん投げられたよ」

 エスラールは鼻をさすった。鈍い痛みが走る。二日連続で鼻血を出すはめになるとは本当についていない。

「そのおとなしそうに見えるところが余計に恐ろしいよ。俺は。その日、模擬戦闘の訓練があって、かかとに鉄板がくっついてるブーツを履いてたんだよ。エメザレはその靴でシマ先輩のこと何度も踏みつけたのさ。ただでさえ顔面をぼこぼこに殴ったのに、その上から鉄板ブーツだぜ」

「それがシマ先輩のあの傷跡なのか」

 今さっき見た、シマの顔を思い出し、身体中が震えるような感覚に襲われた。エメザレはシマのことが、本当に嫌だったのだろう。あの傷は生半可な気持ちで付けられるようなものではない。ミレベンゼの言うとおり、殺そうと思っていたのかもしれない。

「そ。俺、エメザレのことそれまでなめてたけど、その一件から恐くなった。そんなことしそうな奴じゃなかったから余計に。だからエメザレって、皆からちょっと引かれてるんだよ。何するかわかんねーからな。そういう意味ではシマ先輩と微妙に似てるとこあるよな。で、それからエメザレもシマ先輩から遠ざかって、自分の力で手に入れた自由ってやつを満喫してたんだと思うんだが――」

 そこでミレベンゼは声をひそめた。



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