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「そうか、今はサイシャーン先輩はそっちの総隊長だったんだな」

 ミレベンゼはエスラールの驚きっぷりに驚いたらしく、ぎょっとした顔をした。

「それ本当か? 総隊長がエメザレにちょっかい? あんなにいいひとが?」

「いいひと? どこが? 俺はぶっちゃけシマ先輩より恐れてたぞ。今はシマ先輩のほうが恐いけど、というかサイシャーン先輩は隊が違うからあれだけどな、当時はシマグループとサイシャーングループっていったら泣く子も黙る強大巨悪の二大勢力だったんだぞ」

「総隊長は昔、エメザレをいじめていた……」

 顔だけならば、確かに巨悪の二大勢力といわれても納得できた。サイシャーンのあの恐ろしく乏しい表情筋は昔の名残ということなのだろうか。エスラールがサイシャーンと会ったときには、既にサイシャーンは涙が出るほど面倒見のいい、厳しくも優しい先輩だった。こわもてな顔面にも慣れてしまって、どう頑張ってもエメザレをいじめていたというのが信じられない。

「そう。でも加担って言ってもサイシャーン先輩は高みの見物をするタイプだから、直接手を下してなかったけどな。それにサイシャーン先輩のほうのグループはもう一人の――名前が思い出せないな。一人いたんだよ。すげー顔が綺麗な奴が。もう、本当にこんな顔の奴いんのか、ってくらいのが。なんて名前だったかな……。とにかく、そっちのほうがお気に入りだったらしい。シグリオスタでは、美形を飼ってるグループが偉いみたいな迷惑な風習があったんだよ。それで、もれなくエメザレもその風習に呑まれていたってわけだ」

「それが嫌でエメザレはめっちゃくちゃ強くなったってことか。なら、なんでガルデンに来て犠牲者に立候補なんてしたんだろう」

「そう、そこなんだよ。そこがわからないから気味が悪いんだ。苛められるのが嫌で強くなったってとこまでは理解できる。なんのきっかけがあったのかは知らねーけど、いや理由なんてないのかもしれないけど、エメザレはシマ先輩から逃げようとしたんだ。あいつ、教師と寝始めたんだよ。特別に時間外授業受けさせてもらったりとか、できるだけ守ってもらえるように、色んな教師とやってたな。なんか死の物狂いで色んな能力を吸収してたように見えた。明らかに抵抗し始めたけど、周りはそれほど気に留めてなかったみたいだ。俺は気付いたけど。たぶん誰もエメザレがあそこまで強くなると思ってなかったんだろうな。俺もそう思ってた」

「でも強くなった」

 エスラールの言葉に、ミレベンゼは大きく頷いた。



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