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「す、好き?」

 自覚できるほど、心臓がにわかに高鳴った。

「もしエメザレに好きだって言われたらあんたどうする?」
「だって昨日出会ったばっかだぞ」
「そんなん関係ねーよ。そんだけ親切にしてもらって世話焼いて助けてもらって、好きにならないほうが変じゃね?」
「……え」

 エメザレが自分を好きになるとは考えてもみなかった。エスラールはベッドの中のエメザレを見た。エメザレはムカつくほど可愛い顔で安らかにお眠りになっている。
エスラールはエメザレが好きではあるが、愛しているというのとはなにか違う気がする。むしろ愛というならヴィゼルのほうが近かった。

 エメザレに優しくしたかっただけなんだろうと思った。優しくされるのは嬉しくて、幸せな気持ちになることを、どうしてもエメザレに気付いてほしかったのだ。エメザレに泣かないでほしいし、傷付かないでほしい。幸せになってほしい。そのためなら、自分が犠牲になっても特に構わない。
 そういう気持ちは愛なんだろうか。エスラールは頭を抱えたい気分になった。

「二号寮は大パニックだってのに、あんたはお気楽だな」
「なんでパニックなんだよ?」

 エスラールが言うと、ミレベンゼは呆れた顔をしてため息を吐いた。

「エメザレが犠牲者から外されたから、新しい犠牲者が選ばれるんだよ。それが誰になるのかって話」
「新しい犠牲者、か」

 シマは先ほど中間能力検査の結果が出しだい再開すると言っていた。中間能力検査の結果が出るのは予定では三日後だが、安息の三日間とはいかないらしい。妙にしんみりして、なんとなく鼻血を拭ったが半分乾いていた。


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