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「そうだ、エスラール。君は彼と同室となり寝起きを共にすることになる。申し訳ない。しかも今日からだ。唐突すぎて本当にすまない。荷物はもう運び出されているはずだ。勝手に本当に申し訳ない。しかし総監に適任者を挙げよと言われて君しか思いつかなかったのだ。それにしてもすまない。激しく申し訳ない」

「ええええぇぇぇ! き、今日からですかっ!」

「そうだ。すまん」

 しかし本当に申し訳ないと思っているのかどうなのか、サイシャーン総隊長の顔面は言葉とは裏腹に大変涼しげである。これも顔面の構造上、仕方のないことということで片付けてやりたいが、やはり納得がいかない気がする。

 エスラールは自分の意思に関係なく物事が運んでいることに多少苛立ったが、嫌だと駄々をこねたところで、どうしようもないのだ。ガルデンで意思を主張しても全く意味がない。上からの命令はとにかく絶対だ。それが餓死も凍死もしないで、ちゃんと生きていられることへ対しての、ささやかとはいえない代償なのだった。ゆえに、ここで暮らしていると妙に物分りがよくなるようである。

「まぁ……決まってしまったことは仕方ないです。どうせ異議の申し立ては不可なんでしょうし……ムカつきますけど。にしてもずいぶんと急ですね」

「君も知っていると思うが、我々は十月にラルグイムの傭兵としてブリンジベーレの遠征に参加することが決まっている。君たち前期二年にとってはブリンジベーレ遠征が初戦だ。戦場でのチームワークのズレは、それがわすかであっても死に繋がりかねない。初戦であればなお更だ。だからなんとしても十月までに、彼を一号隊の仲間にしておきたいんだろう。総監は」

 ガルデンでは前期一年の一年間だけ戦闘予備期間があり、クウェージアが危機的状況にでもならない限りは、その予備期間で戦場の仮想訓練をさせられ、戦術理論をみっちり叩き込まれる。予備期間の終了後、前期二年になって初めて戦場に立てるのだ。
 前期二年の中にはブリンジベーレ遠征をやたらと恐れているような奴もいたが、エスラールは自分の身体能力にまあまあ自信を持っていたので、どちらかといえば楽しみに感じていた。

「ああ、そういうことですか。で、彼って誰ですか?」

 サイシャーンは先ほどから彼、彼、といって名を出していない。せめてこれから一緒に住む奴の名前くらいは聞いておきたいものだ。エスラールは不服そうな顔をしつつ、そう言った。

「彼は彼だ」
「名前は?」
「彼だよ。あの例のエメザレだよ」
「え」

 エメザレ、と聞いてエスラールは言葉を失ってしまった。
 エメザレ。その名はあまりに汚れている。悪い噂しか聞かない。二号隊の内情は噂でしかわからないが、流れてくる噂の半分以上がエメザレに関することで、しかも気分が悪くなるような、えげつない艶聞ばかりなのである。



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