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 シマは比較的長身ではあるが、特別背が高いというわけではない。体躯もどちらかといえば細身で、体格としてはごく普通だ。だが、容赦という言葉を知らなさそうな、無慈悲さが過激なほど剥き出しなのだ。残酷な子供のまま、なんの悪気もなく虫をなじり殺す感覚を持ち合わせたまま、ここまできてしまったひとだと思った。
 シマは殺すことになんの抵抗もためらいもないだろう。そういう気持ちを、きれいさっぱり持っていないのだ。戦ったら殺される。

 エスラールは本能的な恐怖を感じて、唾を飲み込んだ。足がすくんでいる。
 たいした身長差でもないはずなのだが、圧倒的に大きいように感じてしまう。とてつもない気迫に息苦しささえ覚えた。
 エスラールは心のどこかで死を覚悟した。

「お前、エメザレを連れて帰れ」

 シマから放たれた意外な言葉を、エスラールは一瞬理解できなかった。シマの鋭い瞳をぼけっと見つめて言葉の意味を考えた。
 エスラールとシマはしばらく見詰め合っていたが、ふいにシマがエメザレのほうに目を向けた。エメザレの横にはミレーゼンが立っていたが、なにか合図でもされたのか、横たわっているエメザレを少々乱暴に持ち上げると、エスラールのところへ持ってきた。

「ほらよ」

 素っ裸のエメザレを突然差し出され、エスラールは戸惑った。

「持ってかねーなら俺のものにするぞ。いいのか」
「それは困る」
「じゃあ、とっとと連れて帰れよ」

 本当に言葉の選び方といい話し方といい、ミレベンゼにそっくりだ。そんなことを思いながらも、ぐったりしているエメザレを受け取った。

「宴会は休止する。中間能力検査の結果が発表され次第再開。犠牲者はお前たちが検討しろ」

 シマは誰ともなしに言うとエスラールに背を向けた。ミレーゼンもエスラールに一瞥だけくれて、シマに従うように後に続いた。



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