8/9


 その時だった。空気を切り裂くような高い悲鳴が聞こえた。ヒスを起こした子供が力の限り叫んだような耳が痛くなる声だった。エメザレが叫んだのだとわかるまで少し時間がかかった。

「な、なんだよ。うるせーな」

 エメザレを犯していた男が、いくぶん驚いたように言った。エメザレの甲高い悲鳴は止まることなくサロン中に、いや、おそらく二号寮中に響いている。

「ミレーゼン」

 少し離れたところから冷静な声がした。大きな声ではなかったが、よく響く冷え冷えとした声だった。寒気がした。周囲にも明らかな緊張が走る。

「……はーい」

 ミレーゼンと呼ばれた綺麗な男は、諦めたようにエメザレを解放し、荒っぽく放った。エメザレの悲鳴は止まり、床にうつ伏せに倒れたまま動かなくなった。

「お前は、エスラール」

 声のした方向を見ると、最上位グループと思われた四人の中の一人が一歩前に出てきていた。ぼんやりと男の顔が照らされた。男の顔には見覚えがある。一度見たら忘れない、顔の右側に大きな傷がある男――シマだ。
 場の空気が変わった。シマはゆっくりとエスラールに向かってくる。エスラールはなんとか身体を起こした。とりあえず頭が痛い。目もまだ霞んでいた。鼻血も垂れてきたが拭う余裕もない。エスラールを取囲んでいた男たちは後ずさりするようにして、シマに道を開けた。

 シマがエスラールの前に立った。


- 101 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP