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「見りゃわかるだろ。やってんだよ」

 男は面倒くさそうな声を出した。どことなく話し方がミレベンゼに似ている気がして、エスラールは男の顔を確認した。

 意外なほど綺麗な男だ。ミレベンゼではなかったが、全体的な雰囲気や顔の造形がとても似ている。ぞっとするくらいに睫毛が長く、鼻筋が通っていた。広くて薄い特徴的な口の形はミレベンゼそっくりだ。もしかしたら兄弟なのかもしれない。しかし、ミレベンゼのような卑屈っぽさがない。自信に満ち溢れていて、高圧的なのだ。

「やめろよ!」

 いくぶん冷静さを取り戻して、エスラールは言った。
 男は少し間を置いてから、後ろを見た。エスラールも男の視線の先を追うと、中央から離れた場所で四人の人影が立っていた。四人の人影は灯の届かない薄暗い場所から、中央の動向を静かに観察しているようだった。動く気配もなく、表情も見えない。だが明らかに超越的だ。エスラールは、彼らが最上位の四人であると察した。

「嫌だね」

 男は向き直って、非常に癇に障るような口調で言った。

「エメザレを返せ! エメザレは俺と一緒に一号寮に帰るんだ!」

 エスラールが怒鳴ると、男は悪趣味な声で高笑いをし出した。

「なに笑ってんだよ、俺は本気だぞ」
「お前さ、そのふざけた首はなんなんだよ。状況わかって言ってんのかよ。ま、いいか。おい、エメザレ、まだ正気か? 見てみろよ、王子様が迎えに来たぞ」

 男は突っ伏してるエメザレの髪を掴むと、容赦なく引っ張り上げた。
 虚無を映し込んだように虚ろな瞳のエメザレと目が合った。昨日と同じ、どこを見ているのかわからない、魂が抜け出で、原始的な欲求に身を委ねた堕ちた目だ。だが、その目は僅かに精気を取り戻し出した。

「……あぁ、あ、ああ、いや……、や、だ……あぁああああああ!」

 明らかな意思を持ってエメザレは喘いだ。まだ正気はある。かろうじてだが意識は残っていると思った。

「こいつのこと待ってたんだよなぁ。エメザレ。助けてもらいたかったのか? それとも犯されてるとこ見てほしかったのか」
「ち、が……う……ぅ……」

 エメザレは涙をぼたぼた零しながら力なく首を振った。

「エメザレ!」

 エスラールはエメザレに駆け寄ろうとした。だが、身を引いていた取り巻きがそれを阻むように、エスラールをぐるりと囲った。


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