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 一瞬、なにがどうなっているのかわからなかった。あまりにひとが密集していて、うごめく巨大な塊のように見えたのだ。まるで飢えた虫が甘いものに群がっているようだと思った。
 彼らは動きを止め、いっせいにエスラールを見た。うごめきの隙間からはエメザレの姿が見えた。

 もし必要であれば、すぐにでも殴りかかってやろうくらいの勢いで来たのだが、目の前で広がる光景にただ言葉を失い、エスラールもまた固まった。
 エスラールは初めて、犯すということがどういうことなのか知った。エスラールの生易しい想像をはるかに凌駕して、それはおぞましかった。彼の頭の中ではなんとなく、セックスはもう少し美しいものとして処理されてきた。だが想像とは全く違った。エスラールが感じたのは猛烈な吐き気だった。

「お前、なに邪魔してんだよ。今日で最後なんだから楽しませろよ。くそったれが」

 エメザレを犯している男が心底不快そうに言った。男は服を着たままだ。男が声を発すると、群がっていた連中は身を引き、エメザレと男の姿がエスラールの前に鮮明に現れた。

 エメザレの身体は腐っているかのように汚い。赤茶色の点で皮膚が埋め尽くされ、精気がもうまるでない。床に突っ伏しているが、それでも快楽にすがるように腰だけを突き出し、揺らして喘ぐ姿は、官能とは程遠い。残酷ですらあり、狂気じみていて、なんて可哀想なんだろうと思うのと同時に、どうしてこうなるようにしか生きてこれなかったんだろう、という苛立ちを含んだ哀れみが心を覆った。

 信じられないことに、男はエメザレを犯すのをやめる気はないらしい。見なければいいものを、エスラールはエメザレの尻に遠慮なく抜き差しされるそれを呆然と見つめていた。

「なに、してんだ……よ?」

 力の抜けたような、間抜けた声が出た。



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