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「痛たた! 痛っ! いったいぃぃぃぃ」

 首を真っ直ぐにしようと手で頭を動かすと、激しい痛みが走った。まぁ首は繋がっているようであるし、呼吸もしているし、死にはしないだろう。しかし昨日と今日の出来事でエスラールの頭部はもうボロボロである。しかたないので首を右に傾けたまま、状況を整理しようと考え出すと、真っ先にエメザレの冷たい唇のことが浮かんできた。自分の唇がまだ冷たいような錯覚があり、親指でなぞったが、そこにはなんの名残もなかった。

 いや、それよりも、エメザレは?
 エスラールはエメザレのベッドに目をやったが、ベッドは空だった。
 今は何時なのだろうと思った。気絶してからどれだけの時間が経ったのだろうか。とにかくエメザレが帰ってきていないことだけは確かだ。

 助けに行くしかない。エスラールに迷いもくそもなかった。サイシャーンの命令も関係ない。エスラールはエメザレを助けたかった。
 ブーツを履くのはもう面倒くさい。エスラールは痛む首を傾け、裸足のまま部屋を飛び出した。

 一号寮のサロンには、まだ十人弱が集っていた。ひとがいるということは、そこまで遅い時間ではない。
 彼らは、なにか言いたげにエスラールを目で追っていたが、エスラールは無視して通り過ぎた。
 外には、焦る気持ちを嘲笑うように、ゆったりと輝く満天の星空が広がっている。そんな星空には目もくれず、野外訓練場を突っ切り二号寮へ足を踏み入れた。
威嚇するような空気が昨日と変わらずに流れており、やはり不気味ではあったが、今日はそれに躊躇することなく、エスラールは二号寮に入っていった。目指すのはもちろん二号寮のサロンだ。

 昨日とは違い、サロンからはたくさんのひとの気配がした。話し声や笑い声のようなものに混じって、よく響く高い喘ぎが聞こえて、それがエメザレのものだとわかった。

「エメザレを放せ!」

 エスラールは叫びながら後先もなにも考えずサロンへ突入した。


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