4/8


「詳しくは話せない。口止めされているんだ。すまない。私が話せるのはユドという男がサディーレという男を殺した、ということだけだ」

 と言われたのだが、残念ながらエスラールはユドのこともサディーレのことも全くもって知らなかった。廊下ですれ違ったことくらいはあるだろうし、顔を見ればわかったのかもしれないが、名前だけではどうしようもない。とはいえ、サイシャーンのせいではない。サイシャーンに不平をたれたところで、なんの解決にもならないのだ。

「そうですよね。総隊長も色々とお疲れ様です」

 仕方ないのでエスラールは力なく笑ってみせた。

「君には悪いと思っている。私は責任転嫁するつもりはないが、とにかく彼が一号隊に転属してくることは、総監からの絶対命令で止めようがなかったわけだ」

「はぁ」

「そういうわけだから彼は強制的に一号隊にやってくる。私は基本的に、彼を歓迎してやりたい気持ちはあるんだ。しかし明らかに面倒ごとが起きそうな気配がするのはわかるだろう? なにしろ殺人事件の原因を作った奴だ。ぽいと一号隊に放り投げて、勝手に自然に仲良くやってくれ、というわけにはいかないんだ。最終的には仲間になってほしいが、まずは彼に誰かが手を差し伸べて、一号隊の輪の中に入れるよう手伝ってやらないといけない」

「なるほど。その誰かが僕なわけですね。彼が仲間に入れるようフォローしろってことですか?」

 エスラールの問いにサイシャーンは黙って頷いた。
 確かに適任だな、とエスラールは思った。仲がいいとかよくないとか、あまり気にせず誰にでも親しげに話しかけてしまう性格なので、とりあえず知り合いは半端なく多い。
 エスラールが一号隊は全員仲間だと頑なに信じているせいもあるだろうし、偶然にも親しみやすい顔つきをしているというのも、エスラールの人徳に充分貢献している。

「だが生半可のフォローでは駄目だ。名目上はフォローということにしておくが、実質的には監視に近いこともしなくてはならない。彼が妙な行動を起こさないよう四六時中、くっついて見ていてほしい」

「四六時中……? ということは、もしかして僕、お引越しですか!?」

 さすがに驚いてエスラールは叫んだ。四六時中ということは、つまりその“彼”とやらと一緒に住むということになる。話を聞く限りでは得体の知れない奴であるだけに、エスラールはいささかビビってしまった。

 それに、これまですっと同室だったヴィゼルのことも気にかかる。ヴィゼルとは帝立軍事教育所に入隊する前の、大護院の入学時から――つまり七歳の時から十年近く同じ部屋で暮らしている。一番の友達で大きなケンカもすることなく、仲良く楽しくやってきていた。さすがにもう十六なので、部屋がわかれたくらいでヴィゼルも泣きはしないと思うが、長い間一緒にいた同居人が突然にいなくなるというのは寂しかろうし、何を隠そうエスラール自身が結構心細かった。


- 5 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP