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「僕だってロイヤルファミリーの一人なんです。発言権はあるはずです。最後くらい僕の話を聞いてください。宴会を、廃止してください」

 その言葉でやっとシマが動いた。椅子から立ち上がると、エメザレの傍まで来た。明るいところで見るシマの顔はグロテスクだった。何度見ても見慣れるということがない。時々、シマは我々とは違う、なにか別の生物なのではないかと思う。抉れている顔の半分だけを見ると、とても自分と同じ種類の生き物のように思えないのだ。そもそも、シマは生きているのだろうか。無機物が動いているだけのような気がする、顔がこうなる前から、エメザレはそんな疑問を抱いていた。

 エメザレはミレベンゼに拘束されたままだ。髪を掴まれて顔さえ自由に動かせない。いや、動こうと思えば振り払えるのだが、シマが前に立つと、張り詰めた空気に負けてしまって動けなくなる。シマは恐い。顔のせいもある。だが一番恐ろしいのは、考えていることが微塵も理解できないことだ。突然殴られるかもしれないし、理由もなくキスをされるかもしれない。まるで無作為に行動を起こしているかのように感じる。因果性がないのだ。

「お前は俺の傍にいて、俺を洗脳しようとする」

 シマは低く擦れた声でゆっくりと言った。シマの話し方はいつも驚くほど穏やかで静かだった。怒っていても声を荒げることはしない。声など出す前に拳が飛ぶからだ。

「そんなつもりは……ありません」
「口、誰にされた」

 シマは優しい手つきでエメザレの唇を撫でた。デイシャールに殴られたところが、きっとまだ赤くなっていたのだろう。
 シマのことは恐い。しかし嫌いではない。

「教官です」

「皮膚は盾だ。俺のようにはなるな。綺麗だから言うんじゃない。強いからだ。俺の言ってることがわかるか」

 エメザレは首を横に振った。シマの言葉はいつも足りない。なにが言いたいのか、なにを望んでいるのか、本当にさっぱりわからない。どういう意味で言ったのか、数日考えてわかるときもあるが、何年考えてもわからないこともある。



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