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 ミレーゼンは綺麗な男だった。目のせいだ。睫毛が長く、切れ長で澄んでいて、力強い。それ以外は鼻も口も輪郭も男性的なのだが、目だけが際立って美しく、おそらく女性的だった。

「今日はお別れを言いに来ました」

 エメザレはミレーゼンの言葉を流して、影と同化するようにひっそりと椅子に座っているシマに言った。中央にいたロイヤルファミリーは歓談をやめたが、シマの表情はここからでは遠くて見えなかった。持ってきた毛布を床に投げ捨てた。

「今日でここへ来るのはやめます。やめたいなら、いつでもやめていいと言ってましたよね」

 エメザレは歪な輪を避けて、シマの近くへ行った。それでも闇に近い場所にいるシマの顔は不鮮明だ。
 シマはエメザレの問いに答えなかったが、注意して見なければわからないほど、ほんのわずかに頷いた。

「もちろん。お前の自由だ。やめるならご勝手にってさ」

 口を開いたのはシマではなく、ミレーゼンだった。ミレーゼンはおもむろにエメザレを後ろから抱きすくめてきた。エメザレの耳にミレーゼンの吐息がかかる。

 ミレーゼンはでしゃばりだ。シマの代弁者のごとく振る舞い、しかもシマはそれを黙認している。ということはつまり、ミレーゼンの代弁は全くの的外れではないということだった。癪には障るが、ミレーゼンの代弁サービスは重宝していた。ゆえにミレーゼンは最上位グループよりも、シマに近しい特別な地位を暗黙の了解で与えられていた。

「最後に話したいことがあります」
「なんだよ」

 言ったのはもちろんミレーゼンだ。



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