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「ガルデン総監とは、なんだか物々しいですね。もしかして三日前の殺人事件の件ですか?」

「ああ……まぁ、関係はあるな」

 言葉を濁してサイシャーンは深刻そうに頷いた。

「でも殺人事件は二号隊で起きたことで、僕たちの一号隊とは全く関係ない、とまでは言いませんが、さして関係ないような気がしますけど」

 ガルデンの構成は十五から十九歳までの前期と二十から二十四歳までの後期にわかれていて、さらにそれぞれが一号隊と二号隊にわかれている。
 一号隊か二号隊か、というのはガルデンの入隊時に勝手に振り分けられて卒隊まで変わることはない。集団での戦闘が常なので、団結力とチームワークがなによりも大切だからだ。

 後期部隊は隣国のラルグイムに傭兵として貸し出されているため、クウェージアには契約期間が終わるまで帰ってこない。ガルデンに居住しているのは前期部隊だけなのだが、一号隊と二号隊は同じガルデンという建物にいながら接点がほとんどない。仲が悪いというのではなく、話す機会に恵まれないのだ。寮も別々の建物だったし、カリキュラムは設備の問題で、わざわざ被らないように調整させている。食事の時間帯すらずれている。年に数回、合同訓練や剣術大会で顔を合わすことはあるが、あとは廊下ですれ違うくらいの交流しかなかった。

 殺人事件となれば、それはさすがに大事件ではあるのだが、二号隊での出来事は近くでありながらも遠い世界の出来事のように、頼りない噂話しか流れてこない。お偉いさんから説明の一つも欲しいところだが、ガルデンはそこまで親切ではなかった。むしろそういった事柄は隠蔽する傾向にある。

 そんなわけでエスラールは、ガルデン内で殺人事件が起こったことは知っていたが、誰が誰をどのような動機で殺したのかは知らなかった。

「殺人事件自体はもう解決したからそれはいいんだ。犯人はその場で取り押さえられたんだ」

「え、そうなんですか」

「問題は殺人事件の原因の方だ。なんせ原因である彼は被害者でも加害者でもない。制裁を加えるわけにもいかないが、二号隊に放置しておくわけにもいかない。再び同じような事件が起きるのは困る。だから一号隊に彼を転属させることにした。ということだった」

「その説明だと僕にはよくわからんのですが、その彼と殺人事件ってどういう関係があるんですか?」

 もしかしたら総監から事件の詳細を言いふらさないように、と言われているのかもしれない。サイシャーンは故意に要所をぼかして説明している。訓練中にわざわざエスラールを呼んだということは、エスラールに関係があり、なおかつそれなりに重要な用件である、ということだ。しかし、察するにあまりいいことではなさそうだ。エスラールはちょっとばかり逃げたい気分だった。


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