愛国の娘
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彼らはうごめくのを止め、いっせいにエスラールを見た。
 そこには異様な光景が広がっている。群がりの隙間から見えるエメザレはおそらく裸だったが、男たちは誰一人として服を脱いでない。たぶん犯しているのではない。ただ噛んでいるのだ。鬱血痕をつけるためだけに、わざわざ噛んでいる。

 なんだか寒気がした。猟奇的な気がして気持ちが悪かった。理解できない気味の悪さだ。

「なに、してんだ……よ?」

 力の抜けたような、変な声が出た。

「……エスラール?」

 弱々しいがはっきりしたエメザレの声が聞こえ、エメザレがまだ正気なことがわかって、エスラールは少しだけ安堵した。

「印さ」

 エメザレを噛んでいた一人が振り返り、エスラールに歩み寄ってくる。

「印つけてんだよ。ロイヤルファミリーが使用してるって印。一目瞭然だろ?」

 その男はミレベンゼに似ていた。全体的な雰囲気もそうだが顔の造形がとても似ている。前髪は短く、睫毛の長い、意外なほど綺麗な目をしていたが、広くて手薄い特徴的な口の形がそっくりだ。もしかしたら兄弟なのかもしれない。しかし、ミレベンゼのような卑屈っぽさがない。自信に満ち溢れていて、高圧的なのだ。

「し、印……?」

「エスラールって、エメザレと同じ部屋になった奴か。お前、バカか。一人でなに粋がってんだよ。ついでにそのふざけた首はなんだ? 死にてーのか」

 男はエスラールのすぐ近くで止まると、エスラールの首の傾きに合わせて自らも首を傾け嘲笑した。エメザレに群がっていた男達は、エメザレを放り、今度はエスラールを取囲む。

「エスラール。なんで来たんだよ……なんでよ……」

 ぽつんと取り残されたように、床に座り込んでいるエメザレの姿が見えた。そしてエメザレの後ろからは、さらに複数の人影も出現した。
 少し離れたところにいる五人ほどの人影は、まるで彼らの行為を観覧するようにじっと立っている。その様子はどことなく超越的だ。彼らはロイヤルファミリーの最上位グループなのではないかと思った。

 それにしても、一体、何人いるんだ。
 厳しい現実に追い詰められて、エスラールは逆に冷静になってきた。そして毎度ながら自分の愚かさを呪った。

 ぱっと数えただけでも十五人はいる。おそらくそれ以上いる。最悪二十人くらいいる。しかも相手は二号隊の成績上位者だ。いくらエスラールが強いといっても、一対二十では勝ち目はないし、ロイヤルファミリーの中には確実にエスラールよりも強い奴もいるだろう。

 ほとばしる熱き心に任せて、後先を考えずに猛進してきてしまったが、なんの作戦も考えていなければ、味方もいない。その上、急ぎすぎて裸足だ。とどめにこの首とくれば、もう絶望的と言わずになんと言おう。

 しかし全ては今更だ。引くわけにいかない。

「エメザレを返せ! エメザレは俺と一緒に一号寮に帰るんだ!」

 エスラールは全力で怒鳴った。



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