失望から
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 手には毛布を持っている。昨日エメザレを包んできた二号寮の毛布だ。どこに行こうとしているのかはバカでも考え付く。

「二号寮。毛布を返しに。それと寝間着を取りに」

 少しくらいたじろいでもいいようなものだが、エメザレはしばらく間をおいてから落ち着いた声で答えた。開き直りに見えなくもない。

 毛布を返して寝間着を取りに行くというのは、たぶん嘘ではないだろう。ただ、用がそれだけとは思えない。おそらく、あのふざけた宴会とやらにエメザレは行くつもりなのだ。そうでないなら、こっそり真夜中に行く必要はない。

 騙されたような気がしてエスラールはムカついた。あれだけ爆睡して、こちらを油断させておいて、寝静まった頃合を見計らって出て行くという計画性が非常に腹立たしい。

「じゃあ俺も一緒に行くよ」

 エスラールはちょっと怒って言った。昨日のこともあり、今日は――というかできれば毎日ぐっすりと眠りたかった。
 微妙に霞む視界を瞬きで制しながら、エスラールは裸足のままベッドから降りた。石床の冷たさが不覚にも足の裏に凍みて、どことなくぼんやりしていた意識がはっきりとした。

「来なくていい。僕一人で行く」

 その顔は無表情だったが、声から敵意を感じて取れる。
 エメザレがドアノブに手をかけたので、エスラールはドアを覆うようにして、急いでエメザレの前に立ちはだかり、ドアノブにかけられた手を掴んだ。

「行くなよ。もうやめろよ。どうしても毛布を返して寝間着を取りに行きたいなら二人で行こう。それですぐ帰ってこよう」

「頼むから、僕をそんなに苦しめないでよ」

 エメザレは自由の利くもう片方の手でエスラールの手を必死に引き剥がそうとする。その力が本気なのでエスラールも本気でエメザレの手首を締め上げた。

「痛いよ。放してよ。僕のことは放っておいてったら!」

 エメザレの突き放したような態度にエスラールはだんだんと苛立ってきた。どう冷静に考えても正しいのエスラールのほうだ。善意しかないはずなのに報われないのが虚しくて、ひどく悔しい気分になった。

「もっと自分を大切にしろよ! 毎日毎日、色んな奴とやってなんになるんだよ!」

 エスラールがエメザレの両手首を力いっぱい握り締めて強く揺さぶると、エメザレは一瞬だけ怯えたような表情を見せたが、すぐにそれを隠すように侮蔑的な目つきをした。

「どうしてそんなに苛立つのか教えてあげるよ、エスラール。君は僕の心配なんて本当はしていないんだよ。僕を友達だとも、僕と友達になりたいとも本当は思っていない」

 エメザレは不敵に笑んだ。



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