強肉弱食
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「どこ行ってたんだよ」

 また一日の長い訓練を終え、疲れ果てたエスラールが部屋に戻ると、エメザレがベッドにもぐりこんで丸くなっていたので、少々不機嫌な声できいた。
 不機嫌にもなる。朝食抜きという地味に辛い刑を受けたエスラールは、おぞましいほどにやつれた顔で、サイシャーンと共に訓練場へと赴いたのだが、そこでエメザレがいないことに気が付いた。しかも昼食にも現れず、午後の訓練にも、なんと夕食にも姿を見せなかった。

 そのことについてエスラールにはなんの説明もなく、もしかしてエメザレは二号隊に戻されたのではないかと思って心配していたのだ。なにしろ、一言の断りも相談もなく同室にさせられたくらいだ。なにも知らされずに新展開、というのは充分に考えられる。
 二号隊に戻るということになれば、もうエスラールがでしゃばって止めるのは難しくなるだろうし、止める人物がいなくなればエメザレはずっとあの生活を続けるだろう。いくら本人がいいと言っても、エスラールのほうが気になって“生きにくい”。ゲロの中で泣いていたエメザレの姿は、あまりに散々で可哀想で滑稽で汚くて、生涯忘れられそうになかった。

 エメザレと多少なりとも関わってしまった以上、エスラールの立ち入れないところへエメザレが行ってしまったとしても、噂が流れてくるたびに思い出してしまうのは必至であり、それだけならまだしも、もしエメザレが死んだとか、精神異常でガルデンを追われたとか、そんな話になろうものなら、エスラールの心情の日和は一生、快晴と無縁になることだろう。

 ま、つまりエスラールは健気にも一日中、エメザレを心配し、疲弊した顔を更にひどくさせて、じくじくとひたすら淀んでいたのだった。にも関わらず、部屋のドアを開けてみれば当のエメザレはベッドで安らいでいたわけである。拍子抜け半分、怒り半分で不機嫌に落ち着いたのだが、とにかくその気心くらいはわかってほしい。

「僕は医務室で休んでたんだよ。ちょっと調子が悪くて。君こそ、朝はどこに行ってたの?」

「……えーと、総隊長に付き合わされてた感じ? 体調悪いって、大丈夫?」

 エメザレの声が不機嫌も吹っ飛ぶほどに弱々しかったので、エスラールは驚いてベッドの中のエメザレを覗き込んだ。


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