弱肉強食
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“よろしくね、エスラール”
 あの時、エスラールがドアを開け、エメザレが微笑んだ時、確かにエスラールは見たのだ。エメザレの汚染されていない瞳だ。確かに悲嘆があった。諦観や喪失も持っていた。でもそんなものを打ち負かせてしまうほどに、強烈な意思で洗練されているなにか美しいものがあった。

 それを見た時、エスラールはおそらく安心した。ガルデンは素晴らしいものを完全に破壊することはできないのだと知って、それで安心して嬉しくなった。

 一体あれはなんだったのだろうと思う。

「お、か……し、……て」

 エメザレはそんな言葉をうわ言のように連呼する。

「おい、どうしたんだよ。どうなってんだ、おいってば!」

 これでは闇そのものだ。ガルデンが吐き出したゴミだ。ガルデンが産卵した死の穴だ。

 いらない。見たくない。ガルデンは美しい。飢えないし、凍死しない。服に穴は空いていない。年に数回チョコレートが食べられる。アルコールだって配られる。幸せだ。ヴィゼルがいる。友達がいる。幸せだ。ある時が来たら、敵を殺しに行けばいい。幸せを粉砕する悪い敵だ。仲間を殺すわけじゃない。悪い奴を倒すんだ。そんなのは当然だ。悪いのだから。それは悲劇ではない。戦争なのだから。誰もそれが悪いことだとは言わない。愛国の息子たちはこの国に愛されている。愛されているんだ。愛国の息子たちは幸せだ。本当のことは知っている。でもそうでないと嫌だ。嫌なんだ。だってその事実はどのような幸福への努力も及ばない次元にあるのだ。手の届かない、神みたいなずっと上の、上のところだ。

「やめろ、やめろ、やめろよ! やめてくれよ、目ぇ覚ませよ! しっかりしてくれよ!」

 エスラールはエメザレを激しく揺さぶった。しかしエメザレは死体のように力なく、壊れているみたいにがくがくと首を揺らすだけだった。

「あれ、まだ終わってない系ですかー」

 後ろでゆるい声がした。驚いて振り向くと知らない男がいる。痩せた男だった。

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