3/8


 シマは比較的長身ではあるが、特別背が高いというわけではない。体躯もどちらかといえば細身で、体格としてはごく普通だ。だが、容赦という言葉を知らなさそうな、無慈悲さが過激なほど剥き出しなのだ。サイシャーンのように無意識に恐さがにじみ出ているのではない。意図的に周囲へ恐怖を与えるべく、オーラを完全武装している。

 エスラールは本能的な恐怖を感じて、唾を飲み込んだ。足がすくんでいる。
 ミレーゼンは後ろへ下がり、シマがエスラールの前に立った。たいした身長差でもないはずなのだが、圧倒的に大きいように感じてしまう。あまりの気迫に息苦しささえ覚えた。エメザレがエスラールの横に来たが、シマはエスラールだけを見ている。

 このひとには絶対に勝てない。勝つためだけに生きていて、物事の限度を知らないのだ。殺されるかもしれない。
 エスラールは心のどこかで死を覚悟した。

「お前、エメザレを連れて帰れ」

 シマから放たれた意外な言葉を、エスラールは一瞬理解できなかった。シマの鋭い瞳をぼけっと見つめて言葉の意味を考えた。

「先輩……」

 エスラールの横にいたエメザレが呟いた。顔からは血の気が引いている。

「どうしてですか? 副隊長、こいつ宴会の邪魔したんですよ?」
「黙れ」

 ミレーゼンが不服とばかりにシマに言ったが、シマの一言で他にもなにか言いたそうだった口を閉じた。

「エメザレ、もう来なくていい。いや、来るな。お前はもう俺たちと関係ない」
「シマ先輩。いやだ」

 エメザレは悲痛な声を出して、シマにすがるように抱きついた。まるで終焉間際の恋人のように見える。どういうことなのか、状況がわからない。

「お前の代わりなんてたくさんいる」

「先輩、先輩。捨てないで捨てないで捨てないで、僕のこと捨てないで。お願いします。捨てないで。僕以外のひとを抱かないで。誰かを殴るなら僕を殴って。僕だけを殴って。僕だけを抱いて」
「早く連れて行け」

 シマはエメザレを引き離すと、エスラールに向かって突き飛ばした。

「宴会は終わりだ。今後のことは明日話し合う」

 ロイヤルファミリーを見渡してシマは言い、背を向けると歩き出した。ロイヤルファミリーもシマに続く。

「エメザレ、帰ろう」

 エスラールは多少戸惑いながらもエメザレの腕を引っ張った。だがエメザレは動こうとしない。

「先輩、どうしてですか? どうして僕を捨てるの? 先輩、シマ先輩!」

 エメザレはシマの背中に向かって叫んだが、シマは振り向くこともなく、ロイヤルファミリーと共に二号寮の奥へと消えていった。



- 82 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドル
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -