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シマは比較的長身ではあるが、特別背が高いというわけではない。体躯もどちらかといえば細身で、体格としてはごく普通だ。だが、容赦という言葉を知らなさそうな、無慈悲さが過激なほど剥き出しなのだ。サイシャーンのように無意識に恐さがにじみ出ているのではない。意図的に周囲へ恐怖を与えるべく、オーラを完全武装している。
エスラールは本能的な恐怖を感じて、唾を飲み込んだ。足がすくんでいる。
ミレーゼンは後ろへ下がり、シマがエスラールの前に立った。たいした身長差でもないはずなのだが、圧倒的に大きいように感じてしまう。あまりの気迫に息苦しささえ覚えた。エメザレがエスラールの横に来たが、シマはエスラールだけを見ている。
このひとには絶対に勝てない。勝つためだけに生きていて、物事の限度を知らないのだ。殺されるかもしれない。
エスラールは心のどこかで死を覚悟した。
「お前、エメザレを連れて帰れ」
シマから放たれた意外な言葉を、エスラールは一瞬理解できなかった。シマの鋭い瞳をぼけっと見つめて言葉の意味を考えた。
「先輩……」
エスラールの横にいたエメザレが呟いた。顔からは血の気が引いている。
「どうしてですか? 副隊長、こいつ宴会の邪魔したんですよ?」
「黙れ」
ミレーゼンが不服とばかりにシマに言ったが、シマの一言で他にもなにか言いたそうだった口を閉じた。
「エメザレ、もう来なくていい。いや、来るな。お前はもう俺たちと関係ない」
「シマ先輩。いやだ」
エメザレは悲痛な声を出して、シマにすがるように抱きついた。まるで終焉間際の恋人のように見える。どういうことなのか、状況がわからない。
「お前の代わりなんてたくさんいる」
「先輩、先輩。捨てないで捨てないで捨てないで、僕のこと捨てないで。お願いします。捨てないで。僕以外のひとを抱かないで。誰かを殴るなら僕を殴って。僕だけを殴って。僕だけを抱いて」
「早く連れて行け」
シマはエメザレを引き離すと、エスラールに向かって突き飛ばした。
「宴会は終わりだ。今後のことは明日話し合う」
ロイヤルファミリーを見渡してシマは言い、背を向けると歩き出した。ロイヤルファミリーもシマに続く。
「エメザレ、帰ろう」
エスラールは多少戸惑いながらもエメザレの腕を引っ張った。だがエメザレは動こうとしない。
「先輩、どうしてですか? どうして僕を捨てるの? 先輩、シマ先輩!」
エメザレはシマの背中に向かって叫んだが、シマは振り向くこともなく、ロイヤルファミリーと共に二号寮の奥へと消えていった。
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モドル