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 けれどもある日、理解した。思春期の手前特有の潔癖な正義感が、貧困を憎ませ、善悪を問わせ、エスラールに現実を教えた。

 カイドノッテの教師たちは、大護院生に幸せであると思い込ませたかったのだ。愛国の息子たちはクウェージアに愛されていると信じ込ませたかった。だから国家に従順でありなさいといいたかった。愛の象徴がコートと飴だった。

 そして村人たちに知らしめたかったのだ。「愛国の息子たちを見よ。彼らはクウェージアの未来だ。このように素晴らしいコートを着ている。それだけの国力がまだクウェージアにはあるのだ。未来はまだ輝いているぞ」と。

 そして村人たちは、ちゃちな芝居を全て見抜いていて、なにも知らずに芝居をさせられ、やがて戦場で死に行くであろう大護院生を哀れみ、同時に、飢えを知らず清潔で、上等なコートを着ている大護院生を羨み、それらが相殺され無となって、あの言い表しがたい表情と眼差しを作り出していたのだ。


 そのときだ。現実を知ったとき、同時に、村の貧困をなんとかしたいと思っても、人生の道程をもう決められてしまっているエスラールには、どうにもできないことがわかってしまった。

 それを理解したのを機に、エスラールは丘の上から村を見るのをやめた。村に背を向けて、パンを頬張るヴィゼルの不細工な顔を見て笑っていた。
 そう、そのときからエスラールはずっと人生に失望し続けていた。



◆◆◆

「あたたたた……」

 エスラールは、ただ思い出を回想していたような、微妙な夢から目覚めた。半分もげているんじゃないかと心配になるほどの首の痛みで、思考がなかなか復活しないが、どうやらベッドに寝かされ、ご丁寧に毛布まで掛けられているらしい。辺りはまだ暗かった。


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