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「……な、なに? 急に」

「嘘じゃない。俺はエメザレを救いたい」

 エメザレの骨ばった細い身体から寂しさが凍みてくるような気がして、悲しくなってくる。なんだか堪らなくなって、エメザレを強く抱いた。うつむいているエメザレの柔らかい髪の毛が、ちょうどエスラールの頬に触れ、その感触の優しさにわずかな安らぎを感じた。

「エメザレ、行くな。もうやめろ」

「どうしてそんなこと言うの。僕に。そんなこと言われたって、僕は……。酷い。酷いよ……」

 エスラールにおとなしく抱かれていたエメザレが擦れた声で呟いた。

「なにが酷いの?」

「……君のこと、信じるよ。エスラール」

 エメザレはエスラールの問いを流し、唐突にも思えることを言って、ゆっくりと顔を上げた。その顔は力なく微笑んでいる。エメザレの鼻先がエスラールの口元に触れそうなところにあった。弱く静かな月の光に照らされているエメザレの秀麗な顔立ちが、やたらと幻想的に見えた。エスラールのまだ知らない感覚が自分の意志とは無関係に、急激に盛り上がってきて、身体が乗っ取られてしまうような恐怖に駆られる。

 エメザレから離れなければ、と思ったとき、エスラールの唇に柔らかく冷たいものが触れてきた。それがエメザレの唇なのだとわかって、エスラールはもうなにも考えることができなくなった。ただ苦しいほどに心臓が締め付けられた。羞恥なのか不快感なのか、はたまた喜びなのか、ときめきなのか、大まかな印象さえ不確かだった。

「ごめんね」

 すぐ傍から聞こえたはずなのに、まるで遠い場所から放たれた言葉のような気がした。なにに対する謝罪なのかと、エスラールが考え始める前に、腕の中からエメザレが消え去っていることに気付いた。誰もいなくなった自分の腕の中を、不思議に思ってぼんやり見ていると、とんでもなく強大な殺気が真正面から襲ってきた。エスラールはよくわからぬままに、それでも避けようと身を屈めたが、その軌道すら読まれていた。

「ぐぎゃ!」

 エスラールの首には、エメザレの回し蹴りがお手本のように華麗に決まっていた。混迷極まる思考の中、真横に吹っ飛んだエスラールの意識は、宙を舞った状態で途切れた。



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