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「だから、僕は君に憎まれる前に消えるよ。嫌われたり、蔑まれたりするのは構わないけど、憎まれるのはすごく苦手なんだ。だからもう僕に構わなくていいよ。君の平穏な世界から、僕はちゃんといなくなるんだから。心配しなくていいんだよ」

 エスラールはエメザレの両手首を握り締めたまま、エメザレの冷たい顔をただ見つめていた。目に見えそうなほどのエメザレ強烈な孤独が部屋いっぱいに漂ってくる。沈黙が流れ、耳が痛くなるような静けさに包まれた。

 でも。
 その静寂の中で、エスラールは思った。

 でも気持ちは変わらない。
 エメザレと仲良くなりたいという気持ちも、助けたいという気持ちも嘘ではない。なぜそんな気持ちを抱いたのかという理由が明らかになっただけで、気持ちそのものは本物だ。

 平穏を大切にしているのは事実だし、エメザレが平穏を破壊しそうになっているのも事実だ。だからこれから先、エスラールが築いてきた安っぽい平穏が完全に破壊されたとき、エメザレを憎まないでいられるかはわからない。そんな未来のことは神にしかわからない。

 けれども今、エメザレを救いたいと思っている、この気持ちだけは絶対的だ。それだけは譲れない。この思いだけはしっかりと正確にエメザレに伝えたい。いや、絶対に伝えなければならない。
 
 エスラールは衝動的にエメザレを抱きしめていた。


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