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 彼らは遊びに行けないエスラールの暇を心配して、訪ねてきてくれたのだった。彼らはお手製のセカテと呼ばれる絵双六(えすごろく)を持っていて「これで遊ぼう」と言った。

 セカテは古くからあるボードゲームの一種で、紙とペンと僅かな絵心さえあれば誰でも簡単に作れるので、誰しも一度くらいはセカテ作りに挑戦するものだったが、彼らが持ってきたセカテはガルデン史上最強と思われる超大作だった。エスラールとヴィゼルが四ヶ月かけて作ったものなのだが、『暴虐ロード』という題名がついている。

 小さな紙を縫い合わせて作った三メートル強の巨大な紙に、長い長い一本道が右往左往しながら書かれていて、その道は約千のマス目に分割され、全てのマス目に暴虐的な指令が書いてある。例えば『百回休み』とか『一万回腕立て伏せ』とか『バファリソンにケンカを売る』とか『今はいてるパンツをかぶる』とかであり、その指令のほとんどは達成されることはなかったが、最初にゴールするよりも途中の指令を一番多く達成できた者が偉いという、なんとなくできてしまったルールのために、むちゃな指令を達成しようとして負傷する者が後を絶たなかった。まさに『暴虐ロード』の名にふさわしいセカテなのであった。

 彼らはもちろん『暴虐ロード』にエメザレも誘うつもりだったのだが、エメザレが有り得ないほどよく寝ているので、諦めて六人でプレイすることになった。

 狭い部屋の中に三メートル強の『暴虐ロード』を広げると、立つスペースすらなくなってしまい、六人はエスラールのベッドの上でわざわざひしめき合いながら、わいのわいのと騒いで遊んでいたが、それでもエメザレは微動だにせず、気味が悪いほどに穏やかに寝続けていた。

 結局『暴虐ロード』は誰一人としてゴールすることなく、夜も更けたのでお開きということになった。実はこの『暴虐ロード』、あまりに長いためにゴールをするのに三日かかるのだ。そのあたりも結構暴虐的である。
 エスラールもそろそろ眠くなってきたので、歯を磨いて寝ることにした。





 ひどく浅い夢の世界に、ベッドの軋む音が響いた。それはほんの微かな音だったが、知らぬ間にエスラールは神経を研ぎ澄ませていたらしい。頭が起きるよりも先に身体が起きた。

 エスラールは確かに寝ていたのだが、寝ている頭の中でエメザレのことが気になっていたのだ。なぜエメザレは制服のままで寝ているのだろうかということだ。いや、裸で寝るのが恥かしいということなのかもしれないが、少々気に掛かった。それに、死んでいるように寝ている姿は、まるで早急に体力を回復させようとしているようにも感じた。全ては気のせいという言葉で片付けられる範囲だったが、エスラールは懸念を拭えないでいた。
 そして残念ながらその懸念は的中してしまったようだった。

「どこに行くつもりだよ」

 エスラールは出て行こうとしているエメザレの背中に向かって言った。
 時は真夜中である。優しい月の光がエメザレを照らしている。
 エメザレは驚いたように振り返った。




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