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「俺も全く状況が飲み込めてないよ。総隊長に聞いても教えられるのはユドがサディーレを殺したことだけだって言うし、名前だけ聞いても誰かわかんないし。もし口止めとかされてないんだったら、エメザレの知ってること教えてくれない?」

 とエスラールが言うと、エメザレは面倒くさそうにゆるゆると身を起こした。そういえばエメザレの寝間着のことをすっかり忘れていた。エメザレは制服を着たままで寝ていたらしい。べつに文句があるわけではないが、制服はわりとぴったりしているので、寝にくそうだ。寝るなら裸で寝ればいいのにと思った。

「僕も事件の全体像はよくわからないけど、とりあえず僕の知ってることを説明しておくと、四日前の夜十一時くらいにサディーレの部屋で叫び声がして、隣の部屋の奴が駆けつけてみると、部屋の中でサディーレが腹部をめった刺しにされて死んでいて、その死体の隣でユドがナイフを持って叫んでいた、ということらしい。らしい、というのは実は僕、その現場を見に行ってないからなんだけど。でも殺人現場に一番に駆けつけた奴に話を聞いてみたけど、聞けば聞くほどなんか奇妙というか、変なんだよね。僕の転属も含めて」 エメザレは最後のほうの声をひそめた。

「変って?」

 普通に話す程度では、隣に声はもれない気がするが、エメザレにつられてエスラールも声をひそめた。エメザレは小さな声でも聞こえるようにとベッドから乗り出してきたので、腰掛けていたエスラールも前かがみになって顔を近づけた。

「サディーレはロイヤルファミリーの一人なんだよ。ロイヤルファミリーってのは二号隊での成績上位者の名称なんだけど、成績は学力と武力の総合で決まるんだ。頭がいいだけでも強いだけでもロイヤルファミリーにはなれない。つまりサディーレは頭がよくて強かった。十八で、体格はいいほうだったし、ロイヤルファミリーなのを鼻にかけてて、いつも威張り散らしてたから、一般隊士からはかなり倦厭されてたよ。でも実はロイヤルファミリーの中では下位だったんだけどね。それでも二号隊の中でかなり強いことには変わりない。
それに対してユドは十六歳で発育途上のチビで落ちこぼれだ。ついでに気が弱くて、ひとの目を見てまともに口もきけやしない。とにかく軍人には全く向いてないんだよ。間違いなく最弱の部類に入る。二人には圧倒的すぎる武力の差があるんだ。例えユドがナイフを持っていて、サディーレが丸腰だったとしても、殺すのは無理だと思うな」

「不意打ちだったんじゃないの? 例えば後ろにナイフを隠したまま突進して刺したとかさ」

「それは手は色々あると思うよ。偶然とか奇跡とか世の中にはたくさんあるわけだし。事実としてサディーレは死んでいるんだから、ユドはサディーレを殺せた、ということになるんだけど。でもサディーレはもう何度も戦場へ行っている。ここが戦場じゃないにせよ、危険に慣れていて回避する手段だって知ってるんだから、向かってくるナイフに対して冷静な判断ができたはずだし、それに、身体が勝手に反応してとっさに避ける気がするんだ。例えナイフが後ろに隠されていたとしても、気配に気付かないってのが、どうにも納得できないというか……。だって僕たち軍人なんだよ? 普通、相手が殺気を帯びてたらわかるでしょ」

「まぁ、確かに。変と言われれば変だ」

 毎日訓練をしていると察する能力というのは半強制的に身についてしまうものだ。むしろそういった危険を察する感覚を鈍らせないために、休みなく毎日訓練をさせられているといっても間違いではない。
それに、ひとの目を見てまともに口もきけないような奴が、はたしてナイフを隠し、殺気を殺して冷静に接近できるものだろうか。

「でしょ?」

 エスラールの同意が嬉しかったのか、エメザレは小声を保ちながらも興奮気味に言った。



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