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「いや、だめかも。疲れて死にそう」
確かにエメザレの顔は青白かったが、元からこんなものだったような気もする。ただ何十キロも走った後のように疲労してぐったりしているのだ。
それにしても朝はとくに体調が悪そうには見えなかったのに、医務室に一日いられたことに驚きだ。訓練を休む許可というのはめったにでない。骨折やら大怪我やら超高熱やらでどうしても動けない、という場合でもない限り、ちょっと体調が悪いくらいでは休めないのが普通だった。エスラールも昨日、大げさなほど鼻血を噴いたが、骨に異常がないとわかると鼻の穴に布を詰められて帰された。
「なんで医務室に一日いて疲れるんだよ」
「僕にも色々あるんだよ。で、サイシャーン先輩となにを話してたの? 朝食食べないで二人でおしゃべりって、処罰の対象だよね」
エスラールが自分のベッドに腰掛けると、エメザレは顔をエスラールのほうに向けた。
「それが、事情がよくわからないんだけど、なんか総監が総隊長に変な権限を与えたらしくて。具体的にどんな権限なんだかは知らないけど。で、その権限を使って二人で話してたんだ。エメザレのことを聞かれた。たぶん総監命令なんだろうと思う」
「は? 総監が?」
エメザレは寝たままで、深く考え込むような表情をした。そんな表情もしたくなる。総監はガルデンの最高指導者でもはや雲の上の存在だ。最高指導者でありながら、ガルデンを訪れることは稀であり、隊士とはかなり縁遠い。理由もなく一隊士に目をかけるということはないだろうし、総監の名を聞いて、なにやら深刻なことを考えてしまうのは当然だった。
「君、なにやらかしたんだよ? 殺人事件とどういう関係が?」
「それはこっちが聞きたいくらいだよ。ほとんどなんの接点もないのに、なんで僕が転属になるのか、その説明もない。殺人事件についても、ガルデン側からはなにも聞かされてないんだ」
エスラールの部屋移動も唐突だったが、エメザレの転属もそうだったらしい。きっと不満を述べたかったのだろう。エメザレはちょっと怒ったような声を出した。
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モドル