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「あっ……あぁぁ、ぁ……ん」
「本当に噂どおり淫乱なんだね。軽蔑しちゃうな。君なんか黙って足を開いていればいいんだよ」
先端を弄びながら、先生はひどい暴言を吐く。何度も浴びせられてきた淫乱という言葉だったが、それでもじわりと心に冷たく染みて、なんて無様なんだと思った。
「嘘だよ。そんなこと思ってないよ。可愛いなぁ」
自分でも気がつかないうちにエメザレは泣いていた。泣くほどのことでもないのに、目の前が熱くなって目じりから涙がこぼれる。先生は涙を舌で舐めて拭った。
――こんなん悲しいだろう。悲しいんだろう。
一体誰がこんなことを言ったのだろう。どうしてそんな言葉を、今思い出すのだろう。
仮にこの気持ちが“悲しい”のだとしたら、自分を取り巻いているほぼ全ての事柄は悲しいのではないかと思ってしまう。世を構築している全ての現象を見逃さずに一つ一つ受け止め、考え、捉えようとしたら、きっとあっという間に絶望してしまうだろう。空気中には目に見えないだけで、色々な物質が漂っている。それが汚いとか嫌だとか思っていたら息すらまともに吸えなくなる。それと同じことだ。この気持ちを悲しいと認めてしまったら、悲しみに埋め尽くされて、もう立ち上がれなくなってしまう。この悲しみを認めることは絶望することだ。
「あぁ、い、ああぁぁぁ……はぁ、あ、ああぁぁぁぁ!」
先生のペニスが抜き差しされるたびに擦れて熱を帯び、下腹部が煮えたぎるように熱くなっている。中は甘い快楽にただれて、容赦なく正気を抉っていく。
なによりもこの一瞬が嫌いだった。理性が吹っ飛ぶ瞬間、空虚が破裂する寸前、身体の内部が悪意を最高まで凝縮されたものに満たされる。いつもは諦めて放置している摂理への不満が、ひどく鮮やかな色合いとなって脳の中でせめぎあい、混じりあって、最終的に汚泥ような色を作り、あまりの汚さに世界を破壊したくなってくる。
「いや、いや、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「君ってすごい激しいね。こんなにおとなしそうな見た目なのにね。ねぇ、気持ちいい?」
腰を打ちつける大きな音が響き、ペニスが奥まで突き刺さってきて、無理に折りたたまれている足が痙攣し、思惟は麻痺して、堪らない肉欲に全てを捧げるかのように、淫らな恍惚が増長する。
――俺はエメザレと友達になりたいよ?
そんな生易しい言葉で、無知な子供みたいな思想で、どうしてなにかを救えると信じているんだろう。救えるわけがない。変えられるわけがない。そんな単純な仕組みで世界は回っていない。きれいごとなんか意味がない。
「あ……きもち、い――、あぁ、もっと……犯して」
「いっぱい犯してあげるよ。こんなに壊れちゃって、君って可哀想だね。誰が君を壊したの?」
――居場所ならここにあるじゃんか。
そんな安っぽい言葉で、適当な気休めなんかで、なんで、なんで。
――やめろよ。
音もなく虚無が破裂した。善も悪も超越して脳内にある思考を根こそぎ粉砕し、意識は飛び立って、美しい空白が自分を守るように孤高の領域を形成してくれる。
そして思う。ここはどこなんだろう。
絶対的な領域で、無に帰した自分はまるで神のようだ。世界の始まりの空虚に鎮座する無の神だ。誰もここまで到達できはしない。誰も自分を傷つけることはできない。このどこにもない空白に留まっている限り、自分は全能なのだ。
エスラール。
しかし、なぜその名前が頭なの中で、くっきりと映えているんだろう。
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モドル