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 医務室の診察スペースの奥にはベッドが三台あり、衝立(ついたて)でそれぞれ区切られている。エメザレは一番手前のベッドに連れて行かれ、そこに座らされた。

「午前の訓練の教官は誰?」

 先生はエメザレの肩に手を置き、顔を近づけて聞いた。

「ナルビル教官です」

「わかった。僕がナルビル教官に言ってくるから、君は横になって休んでいるといい」

 違和感のない動作で、小さい子供の頭を撫でるみたいに先生はエメザレの頭を撫でる。

「ありがとうございます」

 エメザレが言うと先生はにっこり笑って、医務室から出ていった。

 ブーツを脱いでベッドに身体を横たえると、途端に疲れが襲ってきた。ここまで身がもっているのが不思議なくらいだ。魂的に寝ている状態とはいえ、身体のほうは寝ていない。そりゃあ疲れるさ、とエメザレは思った。

 ただエメザレは十六と若かったし、見た目よりはるかに頑丈にできていた。これが見た目の印象どおり脆弱でありでもしたら、十年も生きられず、すみやかにくたばっていたことだろう。

 医務室のベッドはあまり使われないせいか、それとも薬品の匂いが染み付いているせいなのか、清潔な香りがする。なんだか心が安らいで眠りたくなったが、エメザレは目を閉じなかった。

 医務室には何度が来たことがある。そうそうあることではないが、毎日のように犯されていると、朝になってもうまく立てないことがあるのだ。エメザレには犯されているときの記憶がほとんどない。最初の方は覚えているのだが、途中から意識が混濁して他人事のようになり、いつの間にか意識がなくなっている。だから立てなくなる原因はよくわからない。犯されかたが悪かったのかもしれないし、相手の人数がいつもより多かったのかもしれないし、単に体調が悪かったのかもしれない。ともかく、うまく立てないとなると訓練にならないので、そういうときは休むしかない。訓練を休むには医務官の許可が必要であり、休むときは医務室のベッドを使うことが義務付けられていた。

 先生とはその度に顔を合わせているわけなのだが、どうも自分を見る目がおかしいと感じていた。不思議なことではない。ガルデンに勤務する教官は医務官も含めて、全員がガルデンの卒隊者なのだ。ガルデンを出たからといって、悪い癖が治るとは限らない。いや、治らない場合のほうが多いかもしれない。実際、エメザレは異性を愛せる自信がなかったし、異性と関係を結ぶというのも全く想像ができなかった。

 幼いときから性的な対象として見られることの多かったエメザレは、相手にその手の気持ちがあると、すぐに察することができた。それはある種の危険を回避するために勝手に身についた防衛本能のようなものだ。

 エメザレは可能な限りそういった人物とは距離を置くようにしていたが、医務官となるとそうもいかない。先生の気持ちに気がついていたが、いつもは知らぬふりをしてひたすら寝続けていた。迷惑や嫌悪を感じているのではなくて、相手をするのが面倒なうえに、これ以上肉体関係を結ぶ相手を増やしても、なんの利益にもならないと思っていたからだ。

 衝立越しにドアが開く音がして、先生が戻ってきたらしいとわかった。



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