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「とめないよ。とめるってことは、あそこでは身代わりになると言ってるようなものだったからな。弱い奴は犠牲になるのが宿命だったんだよ。皆、それが普通だと思っている。もし、エメザレがシマの顔をああしたのだとしたら、エメザレは抵抗し復讐したんだよ。おそらく」

「そういえば昨日エメザレに、どうしてバファリソンに抵抗しなかったのか聞いたら『もう抵抗できないんだ』って言ってました。エメザレは一度シマ先輩に抵抗して顔を殴ったのかもしれませんね」

 ひとには少なからず、なんかしらの過去がある。エメザレの身にはかつて、抵抗する気を失わせるような出来事が起こったのだろう。そっとしておいたほうがいいのかもしれないが、エメザレをとめるためには、その出来事を探る必要があるのではないかと思った。

「本当のところは本人に聞くしかないだろう」

「なんだか聞きづらいですよ。ますます険悪な雰囲気になりそうですし」

 エスラールはエメザレの冷たい態度を思い出して、ため息を吐いた。

 エメザレはいつも先にどこかへ行ってしまうし、とくに部屋の外では避けられているような気がする。友達がほしいとか言っておきながら、友達になろうとすると、拒絶されるし、絶対助けが必要なはずなのに、助けようとすると、放っておいてと突き放される。ついでにインポとか言われるし。いったいあいつは何様なんだ、と思いつつも、なぜか放っておけず、嫌いにもなれない自分にいらいらしてくる。

 一瞬だけ見せたあのからっぽの表情が頭に浮かんできて、エメザレを抱きしめたときの身体の冷たさが蘇り、エスラールは身震いした。

「そうだ、二号隊の奴らなら知っているんじゃないかな。なにしろ二号隊のほとんどはシグリオスタの出身だからな」

「ああ、そうだったんですか。なんか、二号寮が別次元の雰囲気だったことに納得しました。けど、じゃあなんで総隊長は一号隊にいるんですか?」

「ガルデンの振り分けはシグリオスタ出身が二号隊で、その他が一号隊になっているらしいんだが、私がガルデンに入った年は、シグリオスタ出身者の人数が多すぎて二号隊に入りきらず、私と何人かだけ一号隊に回されたんだよ。
ことろで、私がシグリオスタの出身だということは、あんまり言いふらさないでくれ。人格を疑われると困る。といっても一号隊はシグリオスタの実体を知らないからな。気にしなくてもいいのかもしれないが」

「そんなに、人格が歪むのが普通なくらいにひどい環境だったんですか」

「シグリオスタは子供の王国だったよ」

 嫌な思い出なのだろう。サイシャーンは気持ちを整理するかのように少し間を置き、話を続けた。



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