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「はい。もちろんです! 全力でとめます」

「エメザレを二号寮へ行かせるな。絶対だ。先日の殺人事件にはエメザレのその行動が大きく関わっている。だからこそ総監はエメザレを一号隊に移したんだ」

 サイシャーンの声色は全く変わっていない。変わっていないのだが、言い方のせいなのか、その言葉は重みがあるように感じられた。

「すいません。ところで、エメザレと殺人事件ってどういう関係があるんですか?」

 まさかヴィゼルが言っていた通り、エメザレはヤバい関わり方をしているのだろうか。さすがに自分が殺されるとは思わないが、殺人と大きく関わっているらしい人物との同棲が強制というのは、いくらなんでもひどすぎる気がする。

「詳しくは話せない。口止めされているんだ。すまない。私が話せるのはユドという男がサディーレという男を殺した、ということだけだ」

 と言われても、当然ながらエスラールは、ユドのこともサディーレのことも全くもって存じ上げない。廊下ですれ違ったことくらいはあるだろうし、顔を見ればわかったのかもしれないが、名前だけではどうしようもない。せめて人相がわかれば、お粗末な推測くらいはできたはずなのに、それもできない。いいかげん不平不満を吐き出したくなる。

 とはいえ、サイシャーンのせいではない。サイシャーンに不平をたれたところで、なんの解決にもならないのだ。

「そうですよね。総隊長も色々とお疲れ様です」

 仕方ないのでエスラールは力なくせせら笑った。

「本来であれば君たちに友人関係を築いてほしかったのだが、それはもう諦めていい。とにかくこれ以上、話がややこしくなる前にエメザレをとめるんだ」

「とめるのはとめます。でも僕は、エメザレと友達になるの、諦めません。仲が悪くなったところで同室なのは変わらないんでしょうし、目の前にあんなのがいたら、僕は放っておけないんで」

「ありがとうエスラール。頼りにしているよ」

 気のせいといわれればそれまでの程度だが、サイシャーンの顔がこころもちほころんだ。

「もちろん、私も放っておきはしない。最悪、私がロイヤルファミリーと話をつける。だが、ロイヤルファミリーにはシマがいるんだろう? いや、シマは確実にロイヤルファミリーだろうな。成績順ならかなり上位にいるはずだから」
 が、微かなほころびはあっという間に消え失せ、今度は沈うつな表情になった。



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