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「二号隊のモットーは『弱肉強食』。宴会の犠牲者は成績が芳しくない奴の中から適当に顔がいいのが選ばれるんだけどさ、だいたい三人くらいかな。普通はそいつらをローテーションして使うんだよ。嫌だったら頭良くするか、強くなるかして、のし上がるしかなかったのさ。

それなのにエメザレは自分で犠牲者に立候補してきたんだ。『三人もいらない。僕一人で充分だ』とかなんとか言ってさ。誰も文句は言わなかったよ。このとおり、顔はいいからね。でも義務はないよ。嫌なら嫌でやめればよかったんだ。

一号隊に転属になったし、『もう来たくないなら来なくてもいい』ってシマ先輩が言ってたの、俺、聞いてたもん。なのにこうやって部屋抜け出してここに来たわけだろ。エメザレは頭がおかしいんだよ。とっくの昔に精神が破綻したんだ。ガルデンに来る前からだったんじゃないかな。大護院時代からそうだったと思うよ。犯されすぎて狂って、犯されるのが大好きになったんだよ。どうだ、なかなか幸せな話だろ?」


 ミレベンゼはブラシで床を磨きながら、エメザレを横目で見て笑った。
 エスラールの腕の中では、満足に言葉も話せないエメザレが裸で震えているのだ。精液と嘔吐物にまみれ、身体中に鬱血痕を付けられ、擦れて赤くなった痛そうなペニスを見て、それでも笑ったのだ。エスラールは悔しくなった。

「なんだよ、その言い草。確かにエメザレは正常じゃないっぽいけどな、犠牲者に立候補したのは思いやりだったかもしれないだろ! ずっと昔から誰かをかばってきかたら、こうなったのかもしれないだろ! いろんな奴がこうなる原因を作ってきたんだろ。みんなで歪めておいて、頭がおかしいなんて言うなよ! そんなこと言う資格ねぇよ! 無責任なこと言ってねぇで助けろよ! なんで放っとくんだよ」

 エスラールの言葉にミレベンゼは手を止めた。怒るか、と思いきや呆れ果てたような顔をしている。それどころか、少し笑っているようにも見えた。


「別に放っといてないだろう。こうして掃除しにきたんだから。
あのさ、あんたさ、一号隊がどんな生温かい温室なのかは知んねーけど、二号隊のルールは弱肉強食なんだよ。

というか、それが世の中を構築してる基本的なシステムなんじゃないのか? 弱い奴は死ねばいいんだよ。弱い奴の子孫なんて残してなんになるんだよ。可哀想だとか、正義だとか、良心だとか、そんなアホみたいなこと言ってたら生物は滅びるんだよ! 俺達は滅びるために生きてるんじゃない。繁栄するために生きてるんだ。それが生物としての正常な本能なんだ。

弱肉強食は、存続のための基本的な、根本的な、絶対的なルールだ。俺達は文明の中で生きて、独自の秩序や綺麗事を確立して、いいことしてる気になってるけどな、文明は自然の中にあるちっぽけな存在なんだよ。自然の掟に逆らって、理想ばっかり求めてたって最終的には破滅するんだ!

弱い奴は死ぬ。心の弱い奴も死ぬ。良心にうつつをぬかしてる奴も死ぬ。ルールを破ったのはエメザレの勝手だ。破滅を選んだのはそいつ自身だ。そんな奴を助ける必要はないし、誰も助けるわけがない」


「頭がおかしいのはお前らだ! 二号隊全員だ! ひとが困ってたら助けろよ! 誰かが悲しんでたら慰めてやれよ! 理由なんてどうでもいいんだよ! この世界はな、どうしようもなくくだらなくて、ろくでもなくて、救いようがなくてウンコみたいなところだけどな、お互い努力すりゃ、ちょっとは居心地のいい空間になるんだよ!

そんな理屈こねて、死ねとか言って誰かが幸せになるのかよ! 俺は繁栄がなんたらとか、生物がうんぬんとか、本能がどうこうとか、そんなんどうでもいいし、それよりみんなが幸せな世界の方がずっとずっと好きだ!」


「あんた、うっぜーーーーーーーー! マジうぜー。半端なくうっぜー。つーか、キモいレベルだし。幸せな世界とか乙女かよ。一号隊ってみんなこんな頭がぱっぱかぱーみたいな奴ばっかなの? いいねぇ、幸せそうで。勝手に言ってろよ。
それよか、どいてくれよ。掃除の邪魔だし。エメザレ洗うから放せよ」

 エスラールはよほど言い返してやろうかと思ったのだが、それよりもエメザレを早くなんとかするべきだ。出かかった言葉をどうにか飲み込んで、エメザレをそっと床におろした。



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