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前髪が長くてよく目が見えない。なんだか根暗そうな卑屈っぽい印象がする。広くて薄い唇のせいだろうか。

 男は腕まくりをし、首に毛布を巻きつけて、水をたっぷり入れた大きな桶を二つと持ち、掃除用のブラシを脇にはさんで立っている。

「あんた、どちら様? なんでそんな変な格好してんの」

 男は持っていた桶をおろし、エスラールの顔と格好を眺め回して言った。寝間着にブーツというのは確かにおかしな格好だが、毛布を首に巻きつけている奴にあんまり言われたくない。

「お前こそ、どちら様だよ」

「俺はお掃除係のミレベンゼ。宴会が終わった後の片付けをするんだ。あ、もしかしてあんたエスラール? エメザレと同室になった奴だろ。そういえば見たことがある気がする顔だ。あんたも大変だね。こんなのと一緒の部屋になって。あー、エメザレなら心配ないよ。いつもそんなふうになるんだ。死にそうだけど死なないから大丈夫。見た目より頑丈なんだよ、そいつ」

 ミレベンゼは巻きつけていた毛布を外して無造作に床に投げると、ブラシを持ち替えて、その柄でエメザレを差した。

「お掃除係? 宴会ってなんだよ。エメザレをこんなにしたのは誰だ」

「うーん。しいて言うならロイヤルファミリーかな? でもエメザレが勝手に望んでそうなってるっていうか、そんな感じ。だからやめさせようとか考えてるんなら諦めた方がいいよ。無駄だから。で、エメザレどかしてよ。床、掃除するから」

 ミレベンゼが淡々と掃除の支度を始めた出したので、エスラールは産まれたてのヒナのようにドロドロになっているエメザレを抱いて持ち上げた。

 床に寝せるのも冷たくて可哀想に思えたので、仕方なくエスラールは床に座り込み、膝の上にエメザレを寝かせたが、震えが止まっていない。

 身体は死ぬんじゃないかと本気で心配になるほどに冷たくなっている。腕や足をさすってみたが気休めにもならなかった。

「エメザレ自身がこうされるのを望んでるって言うのか? そんなバカな話がどこにあんだよ。そんな話、信じられるわけないだろうが。てか、ロイヤルファミリーってふざけたネーミングのやつはなんだ!」

「ロイヤルファミリーは成績上位者だよ。二号隊は偉さが年功序列じゃなくて成績順なわけよ。いや、本当にエメザレには強制してないって。だって、むしろエメザレはロイヤルファミリーのひとりだったんだよ?」

 ミレベンゼは桶の水を床に巻いた。水しぶきがエスラールの顔や服にも飛んできたが、悪びれる様子もなく話を続けた。



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