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「ほんげっ」
という謎の雄叫びをあげてエスラールは飛び起きた。口の中には毛布が入り込んでいる。おそらく大口を開けながら、いびきでもかいて寝ていたのだろう。毛布が詰まって息が苦しかったらしい。しかし冗談抜きに窒息死寸前だったと思われる。心臓が破裂しそうな勢いで脈を打っている。
寝れないとか言っておきながら、完全に寝ていたことがなんだか間抜けに思えて、エスラールは息を切らせながら一人でせせら笑った。
そしてなんとなしに、エメザレのベッドに目を向けた。
「いねぇぇぇぇぇぇえええしっ!」
エスラールは両手で頭を抱えて絶叫した。
エメザレのベットはまっ平らだった。いくらエメザレが薄っぺたいといっても限度がある。いない。確実にいない。
エスラールはベッドから降りると、エメザレの毛布を引っぺがした。当然のようにいない。これでいたほうが驚きだ。どこにいったんだ。希望的に考えるとトイレだろうか。
エスラールは先ほどまでエメザレが横たえていたシーツに触れた。冷たかった。出て行ったのはかなり前だ。希望的に考えると長いウンコだろうか。
しかしさすがのエスラールも今回ばかりは希望にすがるわけにはいかない。エメザレは「二号隊に帰らなければならない」と言っていた。きっとエメザレは二号寮に帰ったのだ。
しかし二号寮に帰ってどうするつもりなのだろうか。勝手に戻ったところで、二号隊にはもうエメザレの籍はないはずだ。そんな子供じみたことをしても、ガルデンが要望を叶えてくれるわけがない。そんなことエメザレもわかっているだろうに、帰ってなんの意味があるのだろうか。
いや、理屈はともかくとして、とりあえずエメザレを探しに行かなくてはならない。自分には責任がある。エメザレから目を放すなとサイシャーンに言われたのだ。
エスラールは半分寝ぼけながら、寝間着に制服のブーツという奇妙な出で立ちで部屋を飛び出していった。
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モドル