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 ペニスが口の中から引き抜かれた途端、胃の中にあった全てのものと気管の精子が逆流し、こみ上げてきたものを床に向かってぶちまけた。と同時に掴まれていた頭が放され、支えを失って見事に生温かい嘔吐物の中に落下した。

 だがそれでもアナルの中のペニスは動き続ける。顔は嘔吐物を拭う雑巾のように動きに合わせて上下する。息を吸おうとする度に、鼻と口に酸っぱく硫黄の臭いがする死んだ体液がのめりこんできて、満足な酸素にあり付けない。

「ああぁ、あ、ああぁ、うう、やぁぁああーーー!」
「俺はこいつの目が好き。すげー可愛い」

 また誰かが嘔吐物にまみれた汚い顔を引き上げてペニスを押し付けてくる。誰かは両手で右目をこじ開けて、その中に硬いペニスを擦り付けた。視界の半分が性器で覆いかぶされて、まるで目の内側からペニスが突き出てきたような錯覚に陥る。その先っぽは精液で濡れていて目の中の涙と交じり合い、粘っこい涙が溢れた。

「うぁ、ぁ……ああぁぁぁぁ、い……ッ……いや、あ――イっちゃ、ううぅ」

 もうどうでもいいくらいの悦楽で、目の痛みなど感じない。恐怖もない。溶けるように熱い。身体の中がドロドロの液体になっているみたいだ。

「眼球フェチとか趣味わりーな」

 アナルの方に突っ込んでる奴が笑う。

「ぶにぶにして気持ちいいよ。ヤバイな。こいつの目貫いて、ぐしゃぐしゃにしたい」
「顔はやめろ」

 随分と遠いところで静かな声がした。

「もちろん。わかってますよ。先輩」

 突然目の中で射精された。ペニスが目から放されると、精子が網膜に貼りついて世界中が白くなった。眼球を包み込むようにして目の中に入り込んでくる。幾本もの精子の涙がこぼれた。ここはどこなんだろうか。

「あぁ……ん、ああぁあああ、イくぅう、ぃやあああぁぁぁぁぁーー!」

 白い瞬間を迎えて動脈が壊れそうなほどに収縮を繰り返している。脳の奥が疼いて、ひどい脱力感に襲われ、震えと余韻が治まらない。何度も到達したこの感覚のせいで、生命を使い果たしてペニスからはなにも出なかったが、それでも自分の全てが出て行ってしまったような気がした。アナルの中でも熱いものが広がっていく。大量の精子は温かい飲み物を飲んだときのように冷えた腹部を優しく暖めた。

 一体ここはどこなのだろうか。なにをしていたのだろうか。

 でも誰も、ここまで到達できはしない。ここはどこでもない。どこにも存在しない領域だ。誰も来ない空白の領域なのだ。身体が泣いている。しかし少しも悲しくはない。傷付いてもいない。なぜなら空白だからだ。




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