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「友よっ!!」

 エスラールはヴィゼルの鼻水に臆することなく、その愛らしい不細工な小熊のような顔のヴィゼルをひしと抱きしめ返した。

 適度にごつごつとした男っぽいヴィゼルの体躯は、エスラールの腕に丁度よい心地よさを与え、途端にヴィゼルが愛しくて仕方なくなった。

「エスラールよ、僕の愛しいエスラール。どうして僕を置いて出て行ってしまったんだい! 僕は寂しくて悲しくて、こうして泣かずにはいられないよ! ああエスラール、愛してるっ」

「俺も愛しているよ、ヴィゼル! 君以上に愛しい男はこの世に存在しない。君を置いて出て行かなくてはならない時がこようとは、俺だって思いもしなかったさ!」

 エスラールは鋼のように硬いヴィゼルの短髪を、まるで道端のタヌキでも愛でるかのように優しく撫で回しながら言った。

「ところで鼻は大丈夫だったかい? あの時どれだけ僕はエスラールに駆け寄って抱擁してやりたかったことか! 愛しい友の鼻が陥没したらどうしようかと、僕は気が気ではなかったよ」

「案ずるでない。俺の鼻はあれごとぎで陥没などしないのさ! あれだけの鼻血を噴出しながらもただの打撲で大事無かった」

「ところで」

 ヴィゼルはエスラールの胸から顔を上げ、上着のポケットからハンカチを取り出すと、鼻汁をかんで言った。

「エメザレとはうまくやっていけそう?」

「びみょー。なに考えてるのかよくわかんないし。冷たいのかと思うとちょっと優しかったり、気を使ってるようなそうでないような。でもなんとなくいい奴な気がする」

「そう? 僕はあんまりいい奴には思えないけどな。だってめっちゃ凄まじい噂の数じゃん。一つや二つならまだわかるけど、数えるのが大変なほど膨大なんだよ? そんなふうになるのには、やっぱり何かしらの理由やら実情やらがあると思うんだが」

 ヴィゼルは鼻汁をかみ終わったべしょべしょのハンカチで、今度は顔中に散らばった涙粒を拭きだした。

「俺はそういうの信じないよ。全部嘘なんじゃないかって思ってる。エメザレが嫌われるように誰かが意図的に噂を流してるんじゃないかって」

「エスラールは能天気だなぁ。何事もいいように捉えられるのは長所だろうけど、ひとを信じすぎるのもどうかと思うね。エメザレって大護院時代にシマ先輩を半殺しにしたらしいし。ほら、シマ先輩のあの顔、君も見たことあるだろう。あんなにしたのエメザレらしいよ」

 と言ってヴィゼルはそのカオス状態のハンカチを丁寧にたたむと、元あったポケットに何ごともなかったかのようにしまった。

「あれって火傷の痕じゃないの? 俺、そう聞いたけど」

 エスラールはシマの顔を思い浮かべてみた。


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