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 エスラールはガルデンの外観を数えるほどしか見た事がないが、印象深い建造物だと思う。ガルデンは箱に似ていた。黒く大きな綺麗な箱だ。

 ガルデンのある軍事都市ザカンタは、いたく機能的な街並みで、エスラールが幼少を過ごした大護院から見える田舎の風景とは全く違う佇まいだった。

 ガルデンは白い髪が愛国の息子たちに与えている恩恵の象徴のようなものなのだろう。ザカンタの中で場違いに綺麗だった。

 ガルデンの構造はといえば、長方形の額縁の縁を連想させる。ぽっかり空いた真ん中は砂地で大規模の訓練を行えるようになっていて、四方には二階建ての長い建物がある。上が一号寮、下が二号寮、左右は共同の実用施設で、四棟は輪を描くように外廊下で繋がっている。


 そんな一号寮を、エスラールはとぼとぼと歩いていた。正午を知らせる鐘はまだ鳴らない。一号隊はいまだに中庭を延々と回りながら走っているらしく、時々まとまった足音が近付いてきては遠ざかっていった。誰もいない一号寮は静まり返っている。

 エスラールは一度自室を訪れてみた。一番の友達と暮らしていた楽しい思いの詰まった部屋だ。だが開けてみると自分の荷物がどこにもなくなっていた。たったそれだけのことなのに、実際目の当たりにすると、まるで自分の存在が消えてしまったみたいで寂しくなった。

 ふと机に目をやると紙の切れ端が置いてあった。


“エスラールは総監命令により、本日から部屋移動となった。移動先は二〇二号室だ。急ですまない。本当にすまない。泣かないでくれ。申し訳ない――――サイシャーン前期総隊長”

 この文を書いている、サイシャーン総隊長の冷酷な面が浮かんできた。案外心を痛めているのかもしれないな、と思いながらエスラールは大きなため息をついて、二〇二号室に向かうことにした。


 二〇二号室は二階ある。二階に上がると、外廊下から一号隊の仲間達が走っている姿が見えた。本来ならばすぐにでも二〇二号室に行って、エメザレと挨拶を交わさなければならないのだろうが、そんな気分にはなれなかった。

 なにを話せばいいのかもよくわからない。どんな顔をして会えばいいのかも見当がつかない。

 エスラールはしばらく、仲間達と晴れ渡った青空を交互に見つめて、ああ、なんかもう俺、雲的な存在になりたい。などという女々しい空想を繰り広げながら、ため息ばかりをついていた。

「行くか……」

 エスラールは自分なりの覚悟を決めて呟いた。もう決まってしまったことだ。嫌でもなんでも突撃するしかない。

 重い足をなんとか引きずって、エスラールはやっとこ二〇二号室の前に立った。中には、もうエメザレがいるだろう。深く深く深呼吸をしたのち、彼は二度ノックをして間髪入れずに勢いよくドアを開けた。

 外の光に慣れた彼の目には開けたドアの向こうの部屋が、やけに暗く冷たく感じられたのだった。


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