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 簡単に言ってしまえば、エメザレは誰とでも寝る、というのだ。
 ひどい淫乱で一日三人に相手をしてもらわないと寝付けないとか、誰かとやっていないと正気を保てないとか、魂がもう死んでるとか、二号隊でエメザレと寝てない奴はいないとか、夜に二号寮の前を通ると喘ぎ声が聞こえるとか、挙げればきりがないが、とにかくそんな部類のことだ。

 ガルデンには男子しかいない。年頃の男子を一つの建物に押し込めば同性愛が蔓延るのが当たり前で、否定のしようもないし止めようもない。その闇は根深く、心の染みのようになって完全に取れることは生涯ないだろう。それも代償の一つだ。

 それはそれとしても、同性愛を美談にまとめあげることくらいはできるはずだ。もともと称賛されないことに、さらなる不名誉を捧げる必要はない。

 エメザレと話したことはないが何度も見たことがある。つい振り返って、まじまじと見つめたくなってしまうような顔立ちだ。華奢で儚い印象がする。目立とうとしているわけではないのだろうが、オーラともいうべきか独特の雰囲気がある。そういう対象になる要素は充分だ。

 だがエスラールにはエメザレが、ガルデンのありったけの背徳を固めて掲げているように見えた。エメザレはガルデンの闇を目立たせる。闇はそっとしておけばいいのだ。エメザレを見かけるたびに、やりきれない気持ちになった。嫌悪に近かったのかもしれない。

「勘弁してくださいよ! 無理です。嫌です。たぶん嫌いです。僕。彼のこと」

 無意味なのは知りつつ、エスラールは抗議した。回避できるならば、腹踊りでも裸踊りでも喜んで踊ったことだろう。

「私も申し訳ないとは思っているんだ」
「それはわかりましたけど……」

「君の言うことには影響力がある。友人も多く、皆、君には一目置いている。また君は強い。君とケンカをして勝てると思っている奴は少ない。君がエメザレの傍にいるだけで寄ってくる奴は減るはずだ。そして君は純情で無邪気な男だ! エメザレに毒されないと信じている! それが君を選んだ最大の理由だ」

 サイシャーンはエスラールの両肩にがっちり手を掛けると、冷徹な表情のまま器用にも瞳だけ輝かせて力説した。

「確かに僕は、童貞を異性に捧げたいと思っていますけれども……」

「そうか、よく言った! しかし、そういうことは声に出して誓わなくてよろしい。心の中で唱えてなさい。そういうわけだからエメザレを頼んだ。まともな生活というやつを教えてやってくれたまえ」

 サイシャーンはエスラールの肩をぽむぽむと二度強く叩くと、惚れ惚れするような華麗な動作で身を翻し左手を控えめに掲げた。

「では、さらば」

 堂々とした、痺れるような気風に圧倒されて、エスラールは男らしいサイシャーンの背中を見送っていた。
 そしてすっかり見送ってしまってから気が付いた。

「てゆーか、部屋、どこになったか聞いてねーし……」


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