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「お前には役目が残っている。残っているからここにいる。目的はなんだ」
「私の真の役割は庭園を完全に消去することだ。計画の失敗と同時に私は発動され、庭園とを消去すると同時に消滅する。私はとても長い間お前を待っていたんだ。お前がここに帰ってくるのを」
「そうか。やっとこの世界から解放されるのか。つらかったよ。とても」

 優しい世界が懐かしかった。無情なるあの世界が、秩序と慈恵に満たされることは永遠にないだろう。

「ラルレはお前に帰ってきてほしかった。もう一度あの全てが穏やかだった日々を取り戻したかった。それが不可能となった今、ラルレがお前を許すと伝える手段はこれしかなかった。帰る場所がこんな姿ではさぞ寂しかろうと。お前が最後に哀しくないように」

 その顔は紛れもないラルレの顔だった。美しく愛を湛えた微笑は全てを凌駕して愛おしい。「さぁ見るがいい。ラルレの空中庭園を」
 後継者の言葉と共に空中庭園は動き出した。
 乾いた土が潤っていく。枯れていた木々が、草花が、凄まじい勢いで成長していく、何十年何百年もの時の流れが一瞬にして流れている。目まぐるしく変化する庭園はやがてあの時の、あの美しい完璧なる庭園になっていく。
 彼の瞳からは熱い涙が吹き出ていた。

「おれは帰ってきたんだ」

 やがて収縮し始め、塵のように消えてゆく空中庭園の中で、彼の心はかつてないほどに満たされ、何物にも変えがたい幸福を得て笑みを湛えながら溶けてゆく体を心地よく思った。彼が最後に味わったものは完全なる世界に他ならないだろう。それこそが全ての者が希求してやまない理想郷であったのだと信じて、ついに彼は再びラルレに帰依し、そしてやっと完結したのだった。



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